「(……かああああ……)」
扉を出て、とにかく走った。……どこまでか? お手洗いまで少し。
「(……。あっつい……)」
変じゃなかったかな。自然に。出てこられたかな。
「(は。……っ。早く。戻らないと……)」
じゃないと、彼よりも早く出たのに不審に思われるかもしれない。
「(……おおおおお。おさ。おさまんないぃぃぃ)」
……無理だ。無理だ無理だ無理だ……!
熱い。顔が? ううん。体中が。もう、指先までもが。震える。指先が? ううん。体の中まで。
…………痛い。胸の鼓動が。あまりにも大きく。強く。響いてる。
「(……。ひなたくん……っ)」
添えられていた頬に自分の手を重ね、瞳を閉じる。
……もっと、触れていて欲しかった。もっと。近づきたかった。
「(どどど。……どうして。あんな。こと……)」
あれじゃあ。まるで。……キス。するみたいで……。
「(…………。っ……)」
動かなかった。……ううん。動けなかったんだ。
「(…………。……)」
触れ合いそうだった唇に。そっと触れる。それだけでまた、顔が熱くなる。
「(わわわ。……わたし……)」
彼が近づいてくるごとに、鼓動が鳴った。その胸の高鳴りが、苦しいけれど、その苦しさが嫌じゃなくて。
「(……。でも。なんでだろう……)」
おかしいんだ。そんなこと。あるわけないのに。
どうにも治まらない熱を、パシャッと顔を濡らして無理矢理下げる。
「……。そんなこと、あるわけないのに……」
どうして、『もう一回』だなんて。
そんなこと。思ったんだろう――……。



