すべてはあの花のために➓


「っ、うぁ……っ」


 本当にあと少しで触れ合いそうなところで、あいつが苦しそうに声を漏らしながら頭を抑えた。そこでふと、我に返る。


「(……え。何しようとしてたオレ)」


 あの時が最後だと、そう言ってきたのに。……まあ目の前で、こんな近い距離で。終いにはあんなことされたら、しょうがないよね。

 でもオレがそんなことを思っている間に、苦しそうに彼女は頭を押さえていた。目は開いているけれど、焦点が合っていない。


「ちょ、……ほんとに大丈夫? 体調悪いなら保健室に……」


 声を掛けたけど、聞こえてないみたいだ。


「(……え。オレなんかしたっけ)」


 この時までは、“こういうこと”をするのが、こいつにとって“どういうこと”なのか、オレの中からすっぽり抜けていた。
 でも「知らない」と。「わたしはこんなの知らない」と。そう言葉を零すこいつを見てようやく思い出す。


「(……っ、ヤバい。トリガーが……!)」


 そういうことをする直前で止まったから、全部思い出すわけではないだろうけれど。


「……っ、くそ。わかる? ねえ! 返事して!」


 ダメだ。中途半端に思い出すことを嫌がっていたんだ、こいつは。それに……っ。


「ダメだ! こっち見て! ――あおいッ!!」


 あれは。思い出さなくたっていいんだから。思い出す、……必要のないことだっ。

 名前を呼んだら、どうやら帰ってきてくれたみたいだ。どこまで思い出してしまったのかはわからないけど、取り敢えずはまだ目がどこか泳いでいるこいつを落ち着かせる。
 そしたら、ぽろっと花咲って漏らしたから驚いた。でも、そう出てくるってことで、道明寺じゃないってことやそこが嫌だということが少し伝わってきて、ほっとした。

 流石にここに居すぎるとみんなが心配する。というか僻むだろうから戻ろうと伝えたら、さっきの空気が嘘みたいにあっけらかんとして、あいつはパーティーをしていた部屋まで帰っていった。


「(いや、まあいいけど)」


 なんだか少し寂しいと感じた気持ちを払拭して、今日も集まるように、みんなに連絡を一通入れた。


「(アオイ、話せるかな……)」


 話せそうになかったら、オレが言おう。マサキさんには、明日聞くことにする。


「(あいつも知らないことを、オレはちゃんと知りに行くよ)」


 それが、君のためになるのなら。オレの動力源は全て、……君なのだから。


「はあああー……。……危なかった」


 ま、勝手に体が動く動力源でもあるけど。今はちょっと、動けそうにない。


「(……なんで避けないの。ばか)」


 勝手に震えるのだって動力源だ。
 この震えとか、熱い体とか……。ちょっと収まるまでは。……ここに居よ。