「(だったら、ちゃんとオレも言っておくか)」
こいつも言ってくれたんだ。あんな、こいつの胸ん中で言うようじゃダメだ。……まあ、それも気持ちよかったけど。
覇気のないこいつの声が聞こえた。許してもらえるなんて、思ってないんだろう。オレは、全部ちゃんとわかって、そう言ってるというのに。
……わかって、くれないんだろうな。きちんと話したら、嫌うことなんてないのに。言いたくないんだろうな。今までしてきたことを。
「……?」
そっと、体を離して頬に手を添える。
オレも、謝っておくよ。オレも言えないから。……言いたく、ないから。
「……ごめん」
あの時。ハルナのことがあってもすぐに、いつもの場所に行かなかったこと。オレに近寄らせようとせずに、キツい言葉を言ったこと。何度も、唇を奪ったこと。何度も酷いことをしたこと。
ハートを、身に着けさせたこと。
そして……。
「……なにが。ごめん……?」
「ぜんぶ。……全部、ごめんね」
今からしてしまうこと、全てに。
「……。うん。いいよ? 許してあげる」
「そっか。……よかった」
きっと知ってしまったら、許すことなんてしないだろう。……いや、知ることはないか。だってこの賭に、オレは絶対勝つんだから。
理事長と約束をしたんだ。何もかも終わったら…………の、約束を。
「(……ごめんね、あおい)」
何度も思う。オレじゃなかったら、こんなつらい思いをさせずに助けられるのかもしれないって。何度も思う。好きになってごめんって。こんな、……異常なまでに。
何度も何度も。……想ってはその度に、必死になってそれを仕舞い込む。
でも。……どうしよう。今、……仕舞い込まなければいけないのに。それができない。
「……? ひなた。くん……?」
逃げて欲しい。今のオレには、自分で止められないくらいまた溢れてる。頬に触れている手も、腰に回している手も、まだ触れているだけだ。だから、……逃げて欲しいというのに。
目の前のこいつは逃げずに、ただ近づいてくるオレの名を、そっと呼ぶもんだから。
「……あおい……」
この溢れ出る想いに抗えず。彼女の名前を呼んで、そっと自分とおなじものを重ねようとした。



