そう思っていたら、涙を目に溜めながら綺麗な笑顔で笑うもんだから、オレの理性がぶっ飛びそうに。赤くなる顔なんか見られたくなくて、それを手で隠しながらまたかわい……素直になってたから、どんなことを話したのか聞いた。
余程、この生徒会という括りでみんなと仲良くなれたことが、こいつにとって幸せなことであり、それがなくなってしまうと寂しさが募るようだった。でも、今のオレには……。
「……がんばってね」と、不安げにそう言ってくるこいつが。「おてつだい。あったら、する」と。寂しげに言ってくるこいつが。「また。呼んで……? 飛んでいく」と。……悲しげに、言ってくるこいつが。
あまりに愛おしくて、……たまらない。
そう思ったら、「大丈夫だよ」と。自然と柔く、声が出る。そう思ったら、勝手に愛おしいこいつに、手が伸びる。そう、……思ったら。勝手に体が動いて、あいつの額に、キスを落としていた。
「(……これくらいは、いっか)」
家族同然のように、オレらのことを大切に思ってくれた。顔を真っ赤にしてるこいつを、そっと宥めるように言葉を紡ぐ。
あんたは来なくてもいいんだと。飛んでいくのはオレらの方だと。……あんたよりも、大事なものなんてないんだと。だからもう、涙を流さなくても大丈夫だと。そう思ってたらまた勝手に、……体が動いて。
涙溢れるあいつの目元にキスを……。何度も、何度も落としてしまった。
「(……止まった、か)」
ふと離れたら、めちゃくちゃ真っ赤になってた。
「(ははっ。真っ赤すぎでしょ)」
頬を包み込んでやったら、すごい熱くなってた。その熱に少し安堵するとともに、胸が小さく鳴る。
そう思っていたら。こいつがいつもよりも少し強めにオレの服を掴んだあと、ゆっくりと上目を使ってくるもんだから。
「……っ(こいつ、わかってやってんの)」
潤んだ瞳に、上気した頬。しかも上目遣いで、頼りなさげにオレの名前を呼んでくるとか。
「(絶対わかってやってない……!)」
兄貴の二の舞になる前に。顔を見られないように。もう勝手に体が動いてしまわないように。強めにこいつの体を抱き締める。
こっちは必死に早くなる鼓動を静めようとするのに、こいつが余計に引っ付いてきてそれもままならない。
「……。ごめんね」
「ん? 何が?」
初めは、何で謝ってくるのか本当にわからなかった。
「……ごめん」
「………………」
でも、何が『ごめん』なのかなんて、すぐにわかった。
「全部。全部。……ごめん」
そう。答えは、『全部』。
きっと、……ハルナを殺してしまったのは、自分のせいなんだと。母さんを壊してしまったのは、自分のせいなんだと。
……ううん。そんなことオレは一つも思ってないんだけど、今まで自分がしてきたこと全て。いや、もしかしたら生まれてきたことにも、こいつは『ごめん』と謝っているのかもしれない。
「……うん。いいよ? 許してあげる」
許すことなんか一つもないけれど。強いて謝って欲しいことと言えば、嫌われると思って自分のことを話せないこと。その分の謝罪だけを受け取ってそう言う。
あとは、……そう言うだけで、こいつの気が少しでも楽になればいいと思った。



