すべてはあの花のために➓


 わたしは、昔々から神様を祀っている、とある神社の家に生まれた。
 そこの名前は望月。月にのみ従い、月だけを望むもの。月の神をその身に下ろし、その子どもに……いいや、その神にのみ付き従う、馬鹿げた家。昔は小さな村だったらしいから、その名残かも知れないけどね。

 間違って欲しくない。わたしは、稀に見る神の子だった。あそこにも、それはもうどれだけ持ち上げられてきたか。
 それが普通だと思ってた。これが普通だと言い聞かされて。

 血を守っているから、生まれた時からわたしには相手がいた。そう呼ばれてはいるけれど、わたしたちは血が濃い以外、普通の人間とそう変わらない。……変わる、わけがない。


 でも、わたしは過ちを犯した。ううん、過ちなんかじゃない。普通の人間としては当たり前のことだ。
 ただ、……わたしは彼を。好きになっただけなのに。

 相手は、どこの誰かもわからない。ただ、いつも神社に来てくれる少年だった。

 ……うん。そうだね。どこかアキラを、重ねていたところがあるよ。
 名前も知らない。顔も姿も見たことはない。戸に、隔たれていたからね。でも雰囲気とか、そういうところが、初めて彼に会った時あの頃のことを思い出させた。

 はは。……うん、そうだね。いろいろ振り回してるね、アキラのこと。


 ただ、恋に落ちた。それだけだったんだ。家に背くことなんてしてない。ただ、それだけ。想っていた、……だけだったのに。

 わたしのそんな様子に家は、わたしが神の子として役に立たなくなるのを恐れた。と言っても、今日の天候はどうだとか、どこの方角は気をつけた方がいいとか、そんな感じ。大したことはしてない。昔は豊作を願って生け贄のようなことをしてたみたいだけど。立場は変わって、奉られるようになった。それはきっと、神の子の力のせいだろうけど。

 元々が神社だし、今させられてるようなことよりは、よっぽどいい。正直、そんなのただ勘だし。外れることだってある。
 ……神様?  そんなの、いるわけないじゃん。わたしはわたしだ。たとえ、憑きやすい体質として生まれてきたとしても。

 原因は、わたしの勘が外れてきてたかららしいけどね。それが、わたしの中にある想いのせいとか言われて、いろんなことをさせられた。
 滝に打たれたり、……まあ葵は喜んで打たれてたけどね。あんなののどこがいいんだか。あとは断食?  地下に閉じ込められたり、山に放置させられたり。神の力がなかった昔は、村の山奥。土の下で、即身成仏してたらしいけど。

 まあそんなことさせられたって、想いが消えるわけはないし、勘が戻るわけでもない。あるじゃん、スランプってやつ。でも、そんなのもあの家は許さない。