すべてはあの花のために➓


「……馬鹿げてる」


 どこでだって、いつも振り回されるのは子どもだ。


「確かなことやない。けどまあ、あの家には近寄らん方がええ」

「……まあ、できることならそうしたいけどね」


 そんな家、関わりたくもない。でも、そうも言ってはいられない。


「フジばあ、その家どこにあるわかる?」

「……あんた、何する気や」

「言ったでしょ。オレには、助けたい奴がいるんだよ。どうしても」


 あいつだけじゃない。助けるって言ったんだ。丸ごと全部。


「……気いつけや。流石に余所の子には手出さん思うけど」

「大丈夫。任せておいてよ」


 それからフジばあから、その望月のある場所を聞いたら、やっぱりあのレシートに書かれていた場所と途轍もなく近かった。


「(マサキさんも、知ってたってことか)」


 ま、こんな気持ち悪い話、言葉にすらしたくないね。


「(情報は掴めた。恐らくはここで間違いない)」


 あとは、もっとその家の関係者から話を聞きたいんだけど……。


「(話せないだろうな。多分……)」


 あれだけの恐怖だ。
 きっとあいつは、二重人格でも何でもない。



「(アオイは、…………望月の子どもだ)」


 そしてあいつも。でも、望月ではない。


「(それにあいつは、望月を知らないんだ。そんなところだってことを……)」


 だって、知っているならアオイのように震えるはず。


「(……どういうこと。ただの裏側の話じゃないじゃんこれ)」


 アオイは、望月の人間だ。これは恐らく。
 でも、あいつは望月じゃない。でも、望月の血が流れてる分、憑依体質になりやすくて……。


「(……海で死んだアオイが、あいつに乗り移った……?)」


 いや、わかんないけど。本当に予想だし。オレは本人から話を聞かないと信じない。


「(同じ運命を辿ってしまわないように、あいつを救ったのか)」


 その代償として、名前を……――!


「(違う。わかった。なんでアオイが、名字を奪うようなことをしたのか)」


 やり方は、……そう。アズサさんと同じだ。


「望月に、あおいの存在をバラさないようにするためだ」


 きっと望月の存在を知った秘書も、望月を消したんじゃなくて、望月からあいつを隠したんだ。


「(でも、あいつの本当の名前は望月じゃなかった。となると……)」


 アオイ。まだ言ってないこと、いっぱいあるじゃん。


「(……いいや、言えないか。苦しいもんな)」


 自分が、実は死んだ人間だなんて、言いたくなかったんだ。きっと。


「(でも、助けてあげるよ。お前も)」


 まずはアオイからの電話が、今日来るかだ。
 ……吐いてもらおうじゃん。それこそ、全てをね。