言葉にするごとに、フジばあの顔は嫌そうに歪んでいく。
「その話がすごい有名とかやないで。噂で、そのまわりの地域に少し広まったくらいや。……それでも聞くか?」
「うん。知りたい。オレの勘だけど、その望月が関係してると思うんだ」
だって、アオイは恐怖で言葉が出ないくらい怯えていた。何でそんなことになってるのかはわからないけど、その噂を、周りの人間が不気味だと思う可能性は高い。
大きなため息をついたあと、フジばあがゆっくりと話し出した。
「……京都の望月は、近親婚で才子・才女を作ろうとしてる、てな」
京都の、とある神社を歴代で守っているのが望月。
その家は昔からの習わしで、血族婚によってその血を守っている。それはもう、桐生なんて比じゃないほどに。あそこの血は、途轍もなく濃い。異常なほどに。
その異常さ故に、稀にそこの子どもにも異常が出る。
【容姿】
近い血のせいか、その容姿はまるで瓜二つ。双子でもない。親子でもない。にもかかわらず、似たような子が稀に生まれる。
【能力】
異常に優れているか、異常に劣っているか。優れている方の子どもは、神童としてその家を守るため、その周りの人間たちは神童の言う通り、『いろいろなこと』をしてきた。それが正しいと。神童様のお言葉のままにと。
「……もう一人の子どもは」
「どうなった思う?」
嫌な想像しかできなかった。それだけ、血や才を守り続けた家だ。その片方、才を失ってる子どもは……。
「真夜中にな、目隠しされて。どっかに連れて行かれた思うたら、……真っ暗な海や」
「――……!」
……ま、って……。
「小さい舟に乗せられてな。沖の方へ、その舟を押すんやて。本当か知らんけどなあ」
そしてそこから無事に帰ってこられたら、神童とは違うけど、憑きがある子どもとして、それはそれなりに大事にされる。
「けどそんなのは無理に決まっとる。その子どもはまだ小さいんや。どうやったって、帰ってくる子はおらん。……この意味、わかるか」
「……そんなのもう。海に、捨てたってことじゃん」
……待って。待って待って。
「(あれほど怯えてたんだ。これはもう、無関係とかじゃない……)」
「あの家の子は、ようおかしくなるんやて」
「え? ……お、おかしく?」
「その血が関係しとるんかわからんけどな、よう『憑かれる』らしいわ。まあ、それがええんかは知らんけどな」
「憑かれる……?」
「憑かれやすい言うんかな。わざと憑かせて、それを神様からの声やとかようわからんこと言いよるらしい。……こんなんただの噂や。何度も言うけど、本当の話かどうかはわからんで」
……つまり、憑依体質。確かに、血が濃い分遺伝子に異常を来しやすい体。言い方は悪いが、不安定な人間だ。



