すべてはあの花のために➓


「……それで? この年にもなってあんた、世界征服なんてこと企んどるんか」


 多めに茶を点ててくれたみたいだ。フジばあがお茶を持って来たかと思ったら、そそくさと紙袋の桜餅を開け出した。どんだけ好きなんだか。


「違うってフジばあ。世界を救うんだってば」

「へえへえそれで? この歳にもなってあんたは、何とかレンジャーにでもなるつもりかえ? それともライダーかね」

「レンジャーでもライダーでもなくて、オレは棋士。駒はちゃんと動かさないとねー」

「はあ。近頃の若もんの言葉はようわからんわ……」


 まともな日本語を話さないオレに頭を抱えているけど、片手は桜餅に手を伸ばしている。……え。も、もう三つ目??


「ねえフジばあ、つかぬ事を聞くんだけどさ」

「ん? なんねえ」

「食中りって何食べたの」

「桜餅」

「いや、あの時期にどうやって仕入れるのさ」

「冷凍しとったらいけるかと思うてな。……やっぱ一年前のものでもあかんなあ」

「それはあかんわ」

「せやねえ」


 好きなものもほどほどにしないと。チカによくよく言っておこう。


「それで? 棋士さんは何しにズル休みなんてしたんね」

「ん? それは、チカに内緒でしてることだからだよ。チカだけじゃない。みんなにね」

「……喧嘩でもしたんか? あんたらに内緒話なんて通用せんやろ。いっつも筒抜けやないの」

「ううん。それはチカだけ。チカの情報はみんなに伝達するのがオレの役目だからね」

「そ、そうかいな」

「ごめんごめん話が逸れちゃったね。あ。その前に、もう体調はいいの?」

「心配掛けたなあ。ピンピンしとるわ」

「そっか。……それはほんとによかったね」


 本当に嬉しくて笑うと、フジばあは失礼なことに信じられないようなものを見る目でオレのことを見てきた。……ま。それには些か腑に落ちない点があるけど、さらっと流しておいてあげよう。


「それじゃあフジばあ。世界を救う手伝い、一緒にしてくれる?」

「……ようわからん。ヒナタ。ちゃんと話しい」

「うん。じゃあ、これからは真面目に話すね」


 すっと空気を変える。


「桜餅喉に詰まらせないでね。これは本当に、もしかしたら世界さえも救ってしまうかもしれない話だ。オレは、フジばあは茶化さずに聞いてくれるって信じてる」

「話してみ。あんたも孫みたいなもんや。孫の話を茶化すなんてことはせん」

「ははっ。……うん。ありがとうフジばあ」


 そうしてオレが彼女に話したのは、とある少女を助けるために、京都と望月について、『何か知っていることがあるか』ということだった。


「……望月、言うたんか。今」

「(マサキさんと似た反応……)」


 その名前を聞いただけで、すごく嫌そうな顔だ。やっぱり、何かを知っている。


「……その子を、そこから助けたいんか」

「え? どういうこと?」

「違うんかいな」

「……フジばあ。その望月について、心当たりがあるの」

「ないこともないけど。……違うんやろ?」

「……さっきさ、『そこから助けたいのか』って言ったよね。その家、何かあるの」

「違うんやないんか?」

「その家からは、もう出てはいるんだ。でも、まだちゃんと助かってないから、その家について知りたい」

「……なんて言うたらええか。まあハッキリ言うたら気持ちが悪いんや」

「え」

「本当のところは知らんで? 聞いた話やけど、それでもまあ不気味や」

「ぶ、きみ……?」