すべてはあの花のために➓


「ん? ……誰ねえ。こんなに朝早うに……」


 孫はもう学校に行ったし、友達が来ることはないんやろうけど。
 そう思いながら玄関の戸を開けたら、よう知った男の子がおった。


「どしたんねヒナタ。あんた学校は?」

「今日は病欠」

「どこがや。ピンピンしとるやないね」

「てことにしてる、ズル休みという名の世界を救う運動中」

「は? チカゼは学校行ったで? 早よあんたも行き」

「えー嫌だよ。オレ今日はフジばあと世界征服……じゃなかった、世界を救う話をしたいんだから」

「(……世界征服言う方がよう似おうとるわ)」


 にしても、なんで私と話なんか。


「あーあ。フジばあの好きな桜堂の桜餅買ってきたのになー。しょうがないからハルナにあげようかなー」

「それ食べたいとか言えんやつやで。供えたりいね。……なんやようわからんけど、話あるんやろ? あがり。茶点てたるわ」

「大丈夫。ハルナにはちゃんと別で供えるから。これはちゃんとフジばあにだよ。美味しいお茶よろしくね」

「へえへえ。どこおるんね。そこで話しよか」

「あ。じゃあトウヤさんとスミレさんのとこにいる」

「せやな。久し振りやろ? しっかり話したり」

「そうするね」


 それから、久し振りに上がる家をさっさと歩いてヒナタは行った。


「……一体何やって言うんや?」


 ちょっと多めに、お茶持ってってやろうかね。世界征服……ちゃうか。世界を救う運動? に協力せなあかんみたいやしなあ。
 未だに子どもっぽいところあるんやな、と小さく笑って、お茶を点てる準備をした。



「……お久し振りです。トウヤさん。スミレさん」


 二人の前に来て、そっと手を合わせる。来るのはいつ振りだろうか。
 中学は、丸々来てない。それぐらい久し振りだ。お世話になったのにね。まあ次来られるか、って感じですけどね。


「実は、フジばあにもなんだけど、二人にも話があってオレは来たんだよ」


 二人には話そう。二人はちゃんと、聞くべきだから。


「……恨んでる? 恨んでる、よね。多分……」


 でもね、ちゃんと知って欲しいんだ。二人には。


「二人のことを、あんな目に遭わせてしまった子はね、本当はそんなことしたくなかったんだよ」


 そうすることしか、彼女にはできなかった。大切な人たちを、守るために。


「でもね? 二人はちゃんと守られてたんだよ。……追い詰められたよね。苦しかったよね。……っ、チカに。会いたかったよね」


 守ってあげられなくて、悔しがってる人もいるんだ。きっと、何もかも片がついたら、その人も来るから。ちゃんと、謝りに来るからね。


「あと、そうすることしかできなかった子も、きっと来るからね。またその子から直接話をしに来てもらおうと思うけど……」


 今日はオレから。フジばあが来るまでの少しの間。二人が巻き込まれてしまった、悲しい昔話をしてあげるね。