「……路頭に、迷ってた?」


 どうやら母親のアズサさんは、道端で死にかけていたらしい。それを、本当にたまたまアザミが通りかかって助けたとか。アズサさんは働く場所もなければ、寝る場所もなく、そんな彼女をかわいそうに思ったアザミが、道明寺で雇うことにしたらしいんだけど。


「……頭が切れる、ねえ」


 どうやら彼女もあいつ同様に、頭がすごくよかったらしく、あっという間にアザミの秘書にまで上り詰めたそうだ。


「……アズサさんの跡を、今のミクリが引き継いだ……」


 それで、ずっとそばで支え続けてくれたアズサさんとアザミの間に、徐々に大きくなっていった気持ちがあった。どこの誰かもわからない彼女を妻にするなんて……と言うのは、アザミの父親。アイの祖父に当たるサカキしか反対していなかったらしい。

 何故ならアズサさんは、人望も厚く人当たりもよく、そして何よりも頭の回転がいい。ここまで道明寺を成長させたのでさえ、彼女の功績だと言っても過言ではなかったらしいから。サカキさんもアザミに説得されて、二人は夫婦になったらしいんだけど……。


「家出って……」


 しかも、相当酷いもの。絶対にこんなところにいるのがバレないように、名字や素性等は絶対言わなかったらしい。それは、あの家を出ていく時も、同じだったそうだけど……。


「……これをね? 母さんは俺にくれたんだ」


 そう言ってアイは、首から提げているペンダントを指す。


「このペンダント、写真を外したところに”Azusa Mochiduki”って名前が彫られてるんだ」

「望月……」

「俺が、母さんのことで知ってるのはここまで。でも本当人一倍やさしくて、凜々しい人だったみたいだ」


 そんな話を聞いたら、やっぱりどこかあいつと重ねてしまう部分がある。それに彼女は、わざと喧嘩して家を出て行ったとなると……。


「(……もしかして、あいつの母親って)」


 まだわからない。きちんと会って話を聞かない限り、オレは信じない。


「(……会って、か)」


 そりゃ場所がわかってるんなら、会ってぶっ飛ばしてやりたいけどね。それは話を聞いてからだ。


「アイは父親から話を聞いたり、父親の部屋漁ったりして、望月やあいつの父親の方について調べて欲しい」

「うん。頑張るよ」

「オレは秘書の部屋で、何か情報を探してみることにするよ」

「とは簡単に言うが、どうするつもりなんだ?」

「ちょっと駒。いい道具出せ」

『………………』

「理事長、あんただって」

『ええ……!? 私かい!?』

「他に誰がいると思ってるんですかなんですかオレが理事長以外にこんな無茶振りするとでも思ってるんですかええ?」

『ああ。無茶だということはわかってるんだね……』

「なんかないんですか? 覗いたらどんなに隠れてても望月って文字が見える双眼鏡とか」

『そんな無茶な……』

「どんなデータでも抜き取れるようなディスクとか」

『ん?』

「決行は明日……あ。日付変わってるから今日か。今日の夜。卒業式が終わったら、生徒会の仕事は一段落するし、切りがいい」