❀ ❀ ❀


「九条さん、肝心の彼女の名前についてはどうするんですかあ?」


 ――そう。問題なのは、あいつの名前の情報だ。あの家が何かしら情報を掴んでるんじゃないかと、先生は言っていた。オレもその線は十分有り得ると思う。そしてもう一つの可能性として、消したというのも大いに有り得る。
 オレの予想だと、名前を掴んだ家はあいつの両親に関する人たちを消した可能性が一番高いんじゃないのかと。……思ったんだけど。


『……ヒナタ。父親も母親も。生きてると、思うよ』

「!! ……アオイ。どうしてそうだと思うの」


 そんなことを話題に出していないからかもしれないけど、アオイから聞いたことなんてなかった。……でも、どうしてそうだと思うんだろう。


『文化祭の写真館に、お互いに違う妻と夫、それから子どもと写ってる写真を見たから』


 そう言えば秘書は、文化祭に来ていたんだった。それとなくそんな写真を混ぜるのなんて簡単だ。


「(……っ、ちょっと待って。それってもしかして)」


 ――あいつは、実の両親さえも人質に取られている。


「では、彼らも見つけ出して守らないといけないわね」


 先生の言葉に頷くけれど、珍しくカオルが首を傾げている。


「あの、ぼくが彼女の立場なら、そんな両親知ったこっちゃないんですけどお」


 確かに、カオルが言いたいこともよくわかる。オレだって、そんなことをされたら両親のことなんか人質に取られたってどうでもいい。……でも。


「言いたいことはわかるけど、あいつはそんな奴じゃないんだよ」


 本当に、誰よりもやさしくて。他人思い。だって、自分を捨ててしまったのは。彼らが不仲になってしまったのは、全部自分のせいだって。そう思ってるんだから。


「きっとあいつは、両親たちも守る気だ。そうでしょ? アオイ」

『流石。よくわかってるね』


 こんなの、あいつのこと知ってたら十分わかるって。……でも、そうか。生きてるとなると、守備の方が大変になりそうだけれど。


「ま。その辺はクイーンがなんとかしてくれるよ」

「ええ。任せておいて?」

『もし必要なら海棠も動くからね』


 ……そうだった。今オレの中では、道明寺なんかよりもこっちの方が驚異なんだった。
 でも海棠グループは全国に広がっているから、茨城にも京都にも行けて、すぐに守りを固めることができるかもしれないな。


「多分情報を握っているとしたら、父親のアザミか、秘書の乾ミクリだろうね」


 アザミの場合は妻だから、何かしら知っているんじゃないだろうか。……でも。


「俺も小さかったし、よくは知らないんだけど……」


 そう言ってアイが話したのは、母親の話だった。