すべてはあの花のために➓


「なので、タイムリミットはあと二ヶ月。その間にしなければいけないことを、まずはまとめましょう」


 まずはシントさん。彼をなんとかあの家から無傷で出して、皇に拾わせる。あいつもシランさんと提携を結んだみたいだし、無傷で出てこられたら、なんとか彼が拾ってくれるはずだ。
 でも、あの家がシントさんをそのまま放っておくとは限らない。捨てたら消す可能性だってある。だから彼が皇へと行くまでの間、なんとか誰にもバレずにこっそり守る必要がある。


「なので、シントさんを回収するまでの間、見張りと、あとは何かあった時のための対処を取る必要があります」


 あの家は、嘘が得意だから。シントさんに何かしてしまう可能性は大だ。
 守らなければいけないものはまだある。

 花咲家と友達を、あいつは人質に取られている。アオイに確認したら、苦笑いしながらそうだ教えてくれたから、彼らのことも守る必要がある。あいつの考えの一つであるこれをなんとかしないと、あいつは、あの家の駒として利用されることを余儀なくされる。


「あいつが、あの家から出られない足枷になってるものたちを守り通すだけの力がいる」


 それに太刀打ちできるのなんて、限られてる。オレの意思が伝わったのか、先生が大きく頷いてくれた。
 それと、足枷と言えばもう一つ。それは、してしまったことを許してもらうこと。


「それは、シントさんに一つ協力してもらうことにして」

「協力じゃないだろ。……はあ。シントさんがかわいそうだ」


 レンがなんか言ってるけど、まあ放っておいて。
 一つは日記だ。あれはきっと、後夜祭以外のところで嘘はないだろう。それもいいとして。


「あの日記は、いつ誰が、どんなことを話したのかまで。嘘偽りない事実が書かれてる。だからあいつのことを、過去にしてしまったことを、そしてあいつのその時の感情までもが知ることができる」

「ん? まるで九条くんは、その日記を見たことがあるような言い方だね!」

「…………」

「……え。九条くん?」

「たった数日で分厚い日記が埋め尽くされるくらいなので、あそこから探すのはすごい根気のいる作業になりそうですが、まあいい気味ですね」

『あ。やっぱり見たんだ』

「だってアオイが見ていいって言ったんじゃん。ばっちり見たし」

『うん。だからもう一回一応言っておくね。本当にとてつもない量だから、シントすごい大変だと思うんだ。だから』

「でも、大体いつ頃に『そういうこと』をしてしまったのかっていうのは、シントさんは知ってるんじゃないの?」

『え?』

「シントさん優秀でしょ? でもオレが考えてる以上にバカだったら、ちゃんとこちら側に引き入れた時にみんなが手伝うよ」


 まあシントさんのことだから、意地でもあいつのために必死になって、「一人で探すっ!」とか言いそうだけどね。
 でも、恐らく日記だけじゃダメだ。あいつが自分で書いたんだとしても、誰かが偽装することだってできる。オレだったら、もしあいつの過去を知らなくて、そんなことを日記で教えてもらったとしても信用しない。

 あいつがするわけないって。もし事実なんだとしても、受け入れられない。あいつが大事なら大事なだけ。そんなことをあいつがするわけないって。そう、強く思うはずだ。
 だから日記は、どちらかといえば『どうしてそんなことをしたのか』を知るための媒体としてなら、十分に使える。


「だから、やっぱりあいつの口から直接話をさせるのが、一番いいと思うんだ」

「そうね。それは九条くん、ずっと言ってるものね」

『私もそれは賛成だけど、さっき君自身が言ってたじゃないか。彼女はもう誰にも、自分がしてしまったことは話すつもりはないんじゃ、ないか……って……』


 理事長はわかったんだろう。……ま、理事長にしかわからないだろう。これは……まあ嫌だけど、オレらだけの内緒の話だ。


「その辺りの策は考えてるんで、何とかしてあいつが話すような状況を作り出す必要があるんです」


 理事長は、それ以上何も言わなかった。『言わない』ってことは、黙認するということだ。……うん。これでいいんだ、オレは。