「これでいいですよね。なんかヤバそうだし、オレは他にすることがあるんで失礼します」
「帰すと思ってるの?」
「え。そんなこと言われても。危なそうだし、関わりたくないんですけど。……あ。レンは殺さないでくださいね。データ消したって、オレの下僕には変わりないんで」
「いやレンくん。以前からでしょ……」
「どうも放っておけなくて……」
「誰にも言わなかったらいいんでしょ? オレも調べ物とか大変なんで、帰りますね」
「帰すわけがないでしょう」
扉を閉めて逃がさない。
「え。……困るんですけど。ご飯作んないと」
「困るのよね~。レンくんには参ったもんだわー」
「えりかさん……」
「だから、オレが黙っておけばいいんでしょ? 嫌だ嫌だ。もうこんな変な事件には関わりたくなんてないんですよこっちは」
「あら。でも申し訳ないけど、あなたがこの部屋を出て行った瞬間、レンくんの命はなくなるわ?」
「え? 言わないって言ったじゃないですか。動画だって消したのに」
「本当に? 賢そうなあなたなら、パソコンとかに転送してるんじゃない?」
「…………チッ」
「おい九条……」
「それに、あなたもこのままじゃ済まないわ?」
「だから、誰にも言ったりしませんって」
「そんな保証どこにもないもの。どうしてもここから出たいというのなら、あなたに選択肢をあげるわ?」
「は? 選択肢も何も、オレはもう関係ないんで」
「あなたが知りたがってること、教えてあげてもいいのよ?」
「は? 別に、あなたに関係ないじゃないですか」
「そう? でも、あなたのお姉さんのことなら、すこ~し知ってるけど?」
「……!! ……なんで」
「『もうこんな事件には関わりたくない』『調べ物がある』『もう知り合いが目の前で死ぬのなんて嫌だ』……関わりたくはないけど、お姉さんの事件について、知りたいんじゃないの?」
「……あんた、知ってんの」
「あなたの選択肢はこうよ? 一つはこのままここを立ち去って、レンくんやすでにバラバラになっている家族を、この世から消してしまうか。もう一つは、レンくんや家族を人質に、あたしの道具になるか」
「……道具?」
「ええそう。道具になった暁には、事件のことを教えてあげるわ。……どう? 悪い条件じゃないと思うんだけど」
「人質にとっておいてよく言いますね」
「それはそうよ~。裏切りでもしようものなら、自分が死ぬよりも大ダメージでしょ?」
「……っ」
「九条……?」
彼の表情が、悔しさで歪んでいるように見えた。



