すべてはあの花のために➓


 それから、あいつが朝ご飯を作ってくれたからそれを食べたんだけど、本当においしかった。


「(誰かが作ったものとか。誰かと一緒とか。そういうちょっとしたことで、なんでこうも美味しいと感じるんだろう)」


 目の前の彼女がめちゃくちゃ美味しそうに食べてるから、それが自分にも移ったかのように勝手に頬が緩んでしまう。
 それから一緒に……というか、ストーカー作戦で登校することになったんだけど。


「次、仮面取るのは放課後?」

「うん。生徒会室かな」


 そうか。次はもうみんながいるだろうから、こうやって仮面なしで、二人きりで話せるのはここが……。


「(……きっともう、最後か)」


 それはそれでやっぱり寂しいけれど、もう作戦は次にシフトチェンジしている。


「そっか。それじゃあ」

「え――……?」


 きっとここが。……何もかもの『最後』なら。
 高めの段差にいるあいつに、ぎゅっと抱きつく。


「………………、ごめん」

「ん? 何か言った?」


 何度謝ればいいだろう。……いいや、何度謝って許されることなどないだろう。でも口に出さないと気が済まない。


「(オレはずっと、……あんたの幸せを願ってるから)」


 もう、好きだなんて本気で言葉には出せない。
 だから、……できない代わりに、ほんの少しだけ腕に力を入れて、すっと離れた。


「やっぱりおっきいね」

「……!? ばっ、ばかー……!」


 ぽかぽかと頭を叩かれながら、オレは逃げるように家を飛び出した。


「……はあ」


 玄関の扉に背を預けてひとつ、大きく息を吐く。……こうでもしないと、いつまでも抱き締めていたかわからない。


「はは。今のが最後とか、超最低じゃん」


 小さく苦笑いを零しながら、ゆっくりと歩き出す。


「……これでいい。オレが最低なことには、変わりないんだから」


 にしても、一向についてくる気配がない。曲がり角で待ってたら、やっと出てきたけど早速言った方角とは真逆を行きやがったから、急いで連絡を取る。


『……? はい。もしも』

「ふざけないでくれる。右って言ったよね?」


 結局電話で道案内をしながら登校することに。ほんと、頭がいいのかと思ったら、人の言ったことを変に解釈しやがって。


 なんとか無事に登校できた時。『……あの。放課後……』と、耳から頼りない声が聞こえた。


「……うん。大丈夫だよ」


 大丈夫だ。全部。……全部上手くいくよ。
 ……だからまずは。


「だから、勇気出して」


 あんたが勇気を出さないことには、何も始まらないんだから。オレがそっと、……背中を押してあげるよ。



「……さあて。じゃあ今度は、わざと(、、、)攻められてみますかね」


 にやりと笑って、オレの寝室(、、)に繋がる扉を開けたのだった。