すべてはあの花のために➓


 でも、先に堪えられなくなった。


「……っ、だ、だから。あんたは、幸せになれるんだから……!」

「むぐ……っ!」


 こいつの頭を、またオレの胸の方へと引き寄せる。


「(無理無理。いやでも思い出すじゃん……)」


 それは『はじめて』の時のこと。オレが『気づいた』頃のこと。


「……ひ、ヒナタくん。すごいバクバクいって」

「は。そんなのあんたの顔があまりにも怖かったからだし」

「ま、マジか……」

「(んなわけあるか……!)」


 胸の鼓動だけは、そう誤魔化すことにして。今顔を見られたら大変なことになるから、それだけは阻止する。


「はあ。……幸せに。ならないといけないんだよ」

「……? ヒナタくん?」


 あまりにも小さな声だったから、聞こえなかったのかもしれない。……でも、聞こえなくていいよ。オレの声なんて。


「……幸せに、なってね」

「……ヒナタくん?」


 オレが、……その道筋を照らしてあげる。その道の先には、幸せが。……あんたの王子が、待ってるから。

 それからは、お互いのことに触れない、何でもないような話をした。ツバキさんたちも会いたがってたって言うのも教えてもらったけど、……ま、先に会ってるけどね。気持ちだけ受け取っておこう。

 朝になってからシャワーを浴びて、鍵のかかった部屋に入ってカードを確認する。


「……オレだからね。わかるのかもしれないけど……」


 あいつのことを知ってるからっていうのもあるけど。


『赤』と『黒』の漢字を左右対称として考えたら、『三つ』と『二つ』の言葉で区切られた真ん中のを取ったらいいとして……。そうなったら『緑』は、偏と旁で考えて、両サイドの文字を読み進めればいい、かな。


「『わたしは』『ふたつの』『じんかくしゃいやだたすケて』……ね」


 確かにアキくんのことも、答えは若干書いてあると言えなくもないけど。


「なんでいやなのかとかさ、助けて欲しいのは何からなのかとか書かないとさ……」


 オレはいいよ? 知ってるからさ。でも何も知らないみんなは、これ渡されてわかってもさ何からなのかわかんないじゃん。
 ……ああ、でもわかったらちょっと話すって言ってたっけ。それでもよ。


「……はあ」


 ダメだこりゃ。やっぱりこの人、自分から自分がしたことなんか絶対にオレらの前で話さないわ。


「(オレがわかってズカズカ聞くよりも、このカードをみんなにまずわかってもらうのが先決か)」


 ひとまずはカードを鞄に入れておいた。


「……ま。あんたには申し訳ないけど」


 先程録音した状態を確認しておく。


「……うん。ま、こんなもんでしょ」


 大誤算過ぎて、ごろっと計画を変えないとね。


「〈今日の夜にまた集合しましょうね〉……っと」


 きっと、今日が最後の報告になるかもしれないな。


「もうしないって言ったのにねー。いやー、楽しくなってきたねえ」


 たとえ誤算だとしても、こんなハプニングなんて面白いじゃないか。


「……オレなんかは、こうやることでしかあんたの大切な人たちを守れないんだよ」


 また、傷つけることになるだろう。でも、たとえ傷つけることになろうとも……。


「……あんたの大切な人たちは、オレが絶対に守ってあげる」


 その考えを、オレがなんとかしてやろうじゃん。
 これからのゲームが楽しくなりそうで、勝手に口角が上がった。