すべてはあの花のために➓


「あんたさ、覚えてる?」

「……。え?」


 不安げに見上げそうになる彼女の頭を、自分の方へ引き寄せる。


「心配。……掛け合いしようねって」

「……うん」


 まだ不安げだ。大丈夫。もう、このことに関しては聞かないよ。


「知った時から、……あんたのことだから、ずっと心配してくれてたんだろうと思って」

「……?」


 何が言いたいんだろう……。といった感じで、こいつの頭にハテナが浮かんでいるのがよくわかる。


「……心配、してくれてありがとう」

「……!!」


 いやだったんだ。みんなに心配を掛けてしまうことが。
 いやだったんだ。このことを知られて、嫌われてしまうのが。


「(でも、こいつは知ってても、オレと友達になりたいんだって。……そう、言ってくれて)」


 それが、すごく嬉しかったんだ。それですごく、……オレはすくわれた。


「……!」


 伝わればいい。全部。……全部。
 この。……引き寄せた腕から。触れ合う箇所から。お互いの。……熱から。


「(嫌わないでいてくれて。ありがとう。あおい)」


 心配されるのはいやだった。心配なんかしなくていい。
 だって全部、オレが悪いんだからって。心配とか、する必要なんてないって。……そう、思ってた。


「オレのこと、……心配してくれたから」


 でもそれも、こいつのたった一言で。オレはもう、過去にはけりが付いたから。


「今度はさ? あんたの番」

「……。え?」


 オレの言葉で、……なんて。こいつが救われることはないんだろうけど。


「今度はあんたのこと、オレが心配する番」

「……。ひなたくん……」


 話を聞いて、願いも叶え終わった今。こいつが、過去からすくわれる方法は…………。


「(オレらに、許してもらうこと。オレらが安全なこと。……この考えを、オレが変えてあげるから)」


 だからあんたは、ただ信じて待ってれば、それでいいんだ。
 あんたが信じてくれてたらそれで……。オレは、それで十分だから。


「思う存分、オレがあんたの心配してあげる」

「……そ、れは……」

「何? オレのこと心配してたくせに、オレの心配が拒否できると思ってんの?」

「な、……なんかちょっと日本語がおかしい気も」

「……いいじゃん。させてよ心配」

「ヒナタくん……」

「絶対に、あんな家から助けてあげるから」

「……うん。あり、がと」


 大丈夫、知ってるから。それだけじゃあんたを救えないってことくらい。


「できないとか、思ってるでしょ」

「え?」


 バッカだなー、ほんと。全部知ってるし。


「誰だと思ってるの? オレのこと」

「……え?」


 絵本もわかったんだ。味方だって、たくさんつけた。カードの、……難しいのだってわかったんだから。


「オレにできないことなんてあるわけないじゃん」


 あ。こいつの仮面をぶっ壊すのは、破壊まで行かなかっただけで、傷はつけたから。だから失敗じゃないことにするから。


「だからまあ、……大船に乗った気でいなよ」

「――……!!」


 あの時の。そっくりそのまま、あんたに返してあげよう。


「……きっと、幸せになるからね」

「え……」


 思ったよりもやわらかい声が出てオレも驚いたけど、こいつの方が驚いたみたいで勢いよく顔を上がってくる。


「「――……!」」


 引き寄せてるんだから。顔上げたらめっちゃ至近距離になるとか、ちょっと考えたらかるでしょ。


「「…………」」


 でもお互い、その距離から離れようとか。視線を外そうとか。そんなことはしなかった。
 ただただお互いをバカみたいに見つめ合って。……ふっと、体が動きそうになる。