すべてはあの花のために➓


 それから本当にこいつがやさしすぎる大馬鹿だなと思ったあと、聞ける範囲でいろいろ聞いた。


「もう、……離したくなんかないんだけど」


 言ってしまってから気が付いた。この会話、ばっちり録音してたんだった。


「(うわ。いざとなったら使う気満々だったのに。……こいつのところだけ残しとこ)」


 それから、いつかは日記を見せたいって、そう思ってると言ってくれた。


「(シントさんを解雇した時に、遺留品と混ぜて一緒に送るとかなんとか言ってたから……)」


 シントさんにも、シントさんだけじゃなくて、オレらにも見せるように言うつもりみたいだ。


「(こいつから家のことを聞いたのに、アイと秘書の話は全然出てこなかったな……)」


 アイは、会ってはいるけど本当の息子ってことは言ってない。……でも、秘書は会ってないのか。これはまた、一方的な異常の恋だな。

 それから少し話をして、オレが知ってると思ってる範疇で聞けることは聞けたんじゃないかなと思う。


「……あの、さ」

「ん? ……なに?」


 いや、何と言われても……。


「……ずっと、このままの体勢なの?」

「…………」

「ああはいはい。わかったわかった」


 またガッチリ、抱きつかれてしまって動けなくなった。でも、暖房点いててもやっぱり肌寒いんじゃないかなと思ったから……。


「あのさ。オレちょっと寒いから、毛布とか掛け布団とか持って来てもいい?」

「……! そっか。ごめん」


 いや、全然オレは平気だけど。あんたが……と思って。


「(まあいっか)ちょっと取ってくるから、ここで待っ、……て……」

「…………」


 いや、服離してくれないと取りに行けない。


「(はあ。……一体どうしたの)」


 今日は随分甘えん坊と言うか。寂しんぼうと言うか……。


「(まあこのままだと風邪引くかもしんないし、取りに行かせてくれないんだろうし)」


「はあ」と、小さくため息をついてこいつの手をそっと取る。


「……?」

「ふたつ分。持ってこないといけないから手伝って」

「!! …………うんっ」


 嬉しそうに笑って、きゅっとオレの手を握ってきた。
 それだけで、……ちょっと嬉しいとか。そんなのは悟られないように、視線は合わせないようにして、来客用の部屋からそれを取ってまたリビングへと戻る。


「………………」


 まあまだ地べたよりはいい。ソファーに移動した分、体は痛くない。オレが。


「(よっぽど、嫌ったりしなかったのが嬉しかったんだろうな)」


 それからきっと、ルニを重ねているんだろう。抱きついて離さないこいつを、毛布ごと包み込んでやる。


「……? ひなたくん?」

「あのさ、いつからあんたは知ってたの?」

「え」

「いろいろさ、知ってるんだなと思って。ハルナの事件のこと」


 いつから、オレらが九条だと。ルニが九条だと。わかったんだろう。


「…………」

「(でも、言いたくないか。まあ、知ってること自体、あんまり言いたくないんだろうな)」


 知ってるなんて、言いたくないんだろうけど。まああそこまで話してたら、知ってるんだって、言ってるようなもんだよね。


「(だったら、そうだな……)」


 いつとか、どうしてとかは聞かないでおこうか。


「(あーあ。甘やかしてるじゃん。はあ……)」


 でも、今日は止めておいてあげよう。あんなに話してくれたしね。