すべてはあの花のために➓


 それからいろいろ話をすることになった。

 本当のところ言うと、無理して欲しくなかったから少しでも寝てもらいたかったんだけど。余程オレから離れたくないらしく、完璧に抱きつかれて動けない。
 話をし始めて、カードにオレが修学旅行に便乗した時に聞いたこいつの昔話……お日様を取られた話と、アキくんがなんで好きなのかが書かれてるって教えてくれたから、取りに行こうとしたんだけど、それも阻止される。
 でもそのことを聞いて、アオイのことだろうと思ったから朝方にでも確認しようと思った。

 それから、アオイ側からの話とこいつ側からの話を一致させるために、知ってることもどんどん聞いた。


「じゃあ。それを、叶えてあげようって、言われたの」


 アキくんと結婚したいと。アオイからしてみたら荒療治的な考えだったんだけど……。アオイのことを嫌ってるこいつからしてみたら、だから家のためになることなら何でもしているのだと、やっぱり勘違いしていた。


「(これが一番、オレらに嫌われると思ってることか)」


 たとえアオイがしていたとしても、自分がしたことと変わらない。だから、オレらを傷つけてしまったことを知られるのが、こいつは一番嫌がってる。
 ……でも、逆を言ってしまえば。それをちゃんとみんなに理解してもらえたら、こいつの考えをひとつ、変えてあげることができる。


「(……いや。理解して、許してもらわないとダメなんだ)」


 許すとは、違うのかわからないけど……。オレも、こいつに『オレのせいじゃない』って。『だからもう自分を責めるのはやめなさい』って。そう言ってもらえたから、こうして今、過去はなんとか吹っ切れたんだ。
 だから、こいつにとってもみんなにそう言ってもらうことが、きっとこいつにとっても大事なんだ。


「(さりげなく『好き』を混ぜたのに、全然通用しなかったし)」


 ころころ……と。流れ落ちる涙が綺麗だと思った。
 レンズ越しで見た時もだけど、今目の前で、こんな近くで落ちてるこいつの涙が……。宝石みたいで綺麗だった。


「……うん。家のためのこと。したの」


 アキくんとの婚約を取り付けるために、アオイがやってきたと思ってる家のためになることは、どうやら『失敗してからはしてない』と。よくわからない日本語でそう教えてくれた。


「(……一番最後は確か……)」


 カナ、だろう。コズエ先生。それからユズ。彼らが最後の犠牲者だ。


「(……あれ。さっきこいつ、『わたし』がしたって、そう言った?)」


 ――なら、こんな仮説が立てられるか。
 アオイのことを嫌っているこいつは、もうこんなことはやめようとした。だから、わざと失敗する案を家に提案した。


「(失敗と言っても、傷つきはした。だから、家からしたらよかった方なんだろうけど……)」


 オレらが犯人を捕まえたから……って言っても、カナのとこの組の人たちなんだけど。それからは確かに、表立って動いてない、か。


「(結局は最後の海棠を手に入れるために、他のことはしなくなったってとこが妥当な線か)」


 素直でかわいかったから、今のうちにいろんなことを聞いておこうと思った。

 仮面を着けていたのは、やっぱりオレらとは友達でないんだと、そういうことを間接的に家にアピールしてたってことだ。


「(それじゃあ、やっぱり迎え呼ぶの嫌だったんじゃん)」


 でも、了承したと言っていたってことは……。


「(やっぱりもう、こいつはオレらを人質に取られてるって、そういうことだ)」


 それから、もしかしたらシントさんもかもしれないな。何か家にとって不都合なことを言ってしまったなら、その盗聴器が拾って、シントさんの身が危なくなるから……。