すべてはあの花のために➓


「え? そ、そもそも……?」

「うん。なんで話せないのかなって、思ったんだけど」


 何か他に、話せない理由があるのだろうか。それとも、それも教えてはくれないだろうか。
 と、思っていたら。


「……話しちゃったら、わたしの大切な人が傷ついちゃうの」と。「言っちゃったら、わたしの大好きな人たちが危なくなるの」と。そう言ったあと。


「言いたくないこと、言っちゃったら絶対。わたしのこと、嫌いになる」


 と、やっぱりこいつは思ってたみたいで、食い気味で「ならないよ」と、答えてやった。
 どうやら、バレンタインの時のが相当堪えたらしい。もうしないって言っても、腑に落ちないみたいだった。

 でも、いくらオレが大丈夫だって言っても、こいつは縦に首は絶対に振らなかった。


「(……はあ。じゃあ、オレの方が折れてあげる)」


 流石に言わなくていいと、そこまでは折れてあげられないけど。まだ、もう少し時間は取ってあげることにした。


「だから、言いたくなったら言えばいい。絶対に嫌ったりしないから。約束する」

「……う、ん。あり、がとう」


 泣きそうになりながら小さく震えてる体を、やさしく包み込むように抱き締めて、しっかり温めてやる。


「(誰が傷つく……? 誰が、危ない目に遭うの……)」


 それは、こいつのことみてれば十分わかる。あとはアオイの話から。

 ……アオイは言ってたな。こいつも、花咲家の人を人質に取られてるって。それはあの頃のあいつにとって大事なものがそれ以外になかったからだろう。いや、その二人があいつにとって絶対的な存在だったからだ。


「(あとはオレらとか……シントさん? あ。でも解雇するって言ってたっけ)」


 でも、危ない目に遭うって言っても、人質に取られてるわけでもあるまい、し……。


「(いや、レンが言ってたっけ。オレらのことをケバ嬢に話したって。だからこいつは、仮面をガッチリ着けるようになったって……)」


 てことはもう、すでにオレたちは――……。そう思ってたら、赤い手紙をオレが持っていたことを知ってたと、いきなり暴露された。それを見て、どうやら怖くなって泣いたらしい。

 ……ああ、もう。また一人で泣いたんでしょ、どうせ。


「そっか。……泣かしてごめんね」

「っ、ううん。大丈夫。今はもう、信じてるからね!」


 そうは言ってくれるけど。オレ、こいつに酷いことしかした覚えないのに、なんでこんなに信じてくれてるんだと。まあ嬉しかったけど疑問に思った。

 でも正直、聞くんじゃなかったってめっちゃ後悔した。


「最悪! もう! ほんとなんなの……!」


 ふざけんなツバサ! 何勝手に暴露してくれちゃってんの!


「(ばかばかばかばかばかばかばかー……!)」


 こんなん言ったら。オレの戦略が。
 ていうかオレ。ほんとただのバカじゃん。ピエロじゃん。アホじゃん……!


「(キモい。キモいきもいー……!)」


 あーダメだ。もうオレは、このゲームを途中でもちゃぶ台の如く引っ繰り返してやりたい。そして、ボードをクソ兄貴に叩きぶつけてやる……!!

 こちとら心の中で大暴れしてるのに、こいつが『ありがとう』とか『ごめん』とか、そんなこと言ってくるから。……もう。わけがわからない。
 でも、オレがわざと嫌われるようなことをしてたってことを知ってもらえたから、よかった……のか。


 そしたら素直に、苦しいんだって。そう話してくれた。オレに、……話してくれたんだ。