すべてはあの花のために➓


 そう言ってあいつに、赤い封筒を渡した。
 なのにこいつは、オレに一度断りを入れてから、その手紙を破り出す。あーあ、カオルとアイの傑作が。

 そのあとポスターを破ったのも、屋根を開けたのも、停電させたのもオレだと言ったら、……思い切りビンタされた。
 まあ、そりゃそうだろうけどさ。もうちょっとこう、……まあいいや。言ってもオレが裏切り者になってるからね。しょうがない。

 それに、「そもそも君がそんなことするはずないでしょう!」なんて言ってくれる。根拠なんてないみたいだけど。


「ただ、わたしが勝手に君を信じたいだけ。君はそんなことするような人じゃないって。……もし本当にそうだったとしても、きっと何か訳があるんじゃないかなって、そう思う」


 ……なんで。そんなこと言ってくれるんだよ。こんなに酷いことしてるのに。
 確かに、信じて欲しいって思った。でも、これを知ったりなんかしたらきっと、オレなんか信じてくれないと思ったから……。


「(あー……どうしよ。これも誤算だ)」


 ほんと。とことんやさしすぎる。……なんでこうも。こいつのそばはあったかいんだ。

 また冷たくなってた手を掴み、ビンタを食らった頬に当てながら。


「……ありがと」


 そう。素直に、お礼を言った。


「……信じて、くれて」


 本当に、嬉しいんだ。信じてくれたから。


「……なんで? あんたの嫌なことでしょ? こんなことされてまで、あんたはオレのこと嫌いになんないの」

「ん? だからさっき言ったじゃん? 訳があるんだろうって。……だから、信じてるよ。君のこと」


 そう。言ってくれるだけで。オレが、どれだけ嬉しいか。オレが、どれだけ救われてるか。
 ……わかんないんだろうな。ばかだから。


 ふと視線を上げたら、うっすら指の跡が残ったあいつの首元が目に入った。


「(……苦しかっただろうな)」


 オレなんかのために。体を張って守ってくれて。

 そう思いながら首元に手を持って行ったら、あいつの息が止まった。


「っ、はっ。……あの、これは違くて……」


 ――傷付けた。


「(……っ、ダメだ。もう、何もしないでいるだけじゃ。悪くなってくだけだ)」


 でも。どうやったら治るだろう。



『……大丈夫だよ』

「……大丈夫だよ」


 信じて。オレは、あんたを傷つけたいわけじゃないんだ。
 ゆっくりと。こいつが安心するように話しかけながら、手を頭の上から下へと下げる。


「話、たくさんしてあげる」


 まずは、……そうだ。白色のリボンを解こう。


「……嫌いじゃないよ」


 次は、灰色。


「ゆっくり息して。オレは殺さないよ。大丈夫」


 首に添えたらまた息が詰まったけど、……頑張ってくれた。
 落ち着いて息を整えるこいつが何故か、「ごめんね」と、申し訳なさそうに謝ってくる。


「(……っ、何がごめんだ)」


 こんな目に遭わせたオレが。……ごめんだっつの!
 腕を掴んで、グッと自分の腕の中に閉じ込める。


「消えろなんて、思ってるわけないじゃん」


 次に。……黒色のリボンを。


「泣いた?」

「……っ」

「そっか。ごめんね」

「……う、ん」


 次は。……青色のリボン。


「最初から友達じゃないっていうのも嘘だから」

「……。うん」

「ちゃんと友達だから。わざわざ黄色いリボン結ばなくていいんだよ」

「っ、うん……!」


 最後に――黄色のリボンを。

 ……なかったことにはできないけれど。でも。オレが、本当はそんなこと思ってないってことが、今のこいつに伝わればいい。