「はい終わり」
「おお! ありがとー!」
いや、お礼言う前に鏡見なよ? 今ライオンみたいに爆発してるからさ。
「うわ! すごい髪の毛!」
「折角セットしてあげたのに崩すんだ」
「ええ!? そ、そうだったのか……」
そう言って、さっきのように自分でセットをしようとしてるけど……。いやいや、直らないからってオレの方見ないでよ。まぐれでなったんだから。
「はいはい。さっさとご飯作るよー」
「え!? せ、セット……」
「いや冗談だから。真に受けないでよ」
「そうか……」
しゅんって落ち込んでるけど……え? あの髪がいいの? いやー、流石に神経疑うわー。
なんだかんだと二人でご飯作りにかかったんだけど、どうやら母さんのスウェットでも少しデカいみたいだ。
「ちょっとストップ」
「え?」
何度も捲っては落ちまくっては落ちを繰り返してるあいつの袖をグルグルと巻いて、肘よりも上まで持って来てやった。
「これなら落ちないんじゃない? はい、お友達度UP頑張ってー」
「おう! 任せろ!!」
「(……いきなり張り切りだしたんだけど)」
まあ切って煮込めばいいだけだったし、その間は片付けをして晩ご飯を食べた。
「(誰かと一緒に食べるなんて。もう何年振りだろ……)」
人の家で御馳走になることはあるけど、自分の家にまず家族でさえ入れなかったから。……本当に、三、四年振りくらいか。
「ん~!」
すごく美味しそうに食べるこいつを見てるだけで、普通の鍋なのにオレも美味しく感じた。
「(……収まった)」
食べてもずっと出ていたのに。今日は大丈夫そうだ。まあ精神的なものだろうし、母さんの件も一段落したからだろうな。
それから片付けをしながら、お礼として嘘を交えたオレの過去を話した。
嘘って言っても、写真のことだけ。みんなにも、もしこいつにハルナのこととか聞かれたら嫌だったから、あの写真はオレだってことにしてもらってた。
……捨てたのは全部、ハルナの方だと。そう嘘をついた。
話したのはいいんだけど、あいつは何を考えてるのか、無言で片付けをし出した。
「(……どうしたんだろ)」
約束を果たさないまま、刻一刻と時間が過ぎていって、もうすぐ日が跨ぎそうだ。
「……約束。いいの?」
「……ううん」
「話さないの?」
「……話す、けど」
そんな暗い顔をして欲しいわけじゃないのに、すごく申し訳なさそうにしてる。
自分が悪いと。そう思ってるんだろうか。でも、それは違う。
だって、さっきあんたがオレに言ってくれたじゃん。オレのせいじゃないんだって。
だったらオレも言うよ。今はまだ、言ってあげられないけど。
……でもいつか。あんたが助かったその時は。ちゃんと言ってあげるから。
『あおいのせいじゃないよ』
……ってさ。
だからそう思って少し話を変えて、どうしてオレが近づいて欲しくなかったのかを話した。あんな母さんいると知られたら、隠していたオレだって犯罪者だ。そんなの、……あんたに知られたくなかったんだ。
「(なのにさ。こんなオレだって知っても……)」
いいや。知ってても、オレなんかと友達になろうとするんだね。
ほんと、ばか。……ばか。
「(ずっと。罪を背負っていくもんだと思ってたのに……)」
ずっと、隠して隠して。それで、バレないようにしてきた。
バレてもどうせ。……みんなオレから離れていくんだろうなって。そんなことばっかり、考えてた。
「(でも、今こうしてこいつはオレとまた、友達になろうとしてくれてる)」
ほんと、……やさしすぎる。こんなの、あるわけないって思ってたから。
「(ほんと、嬉しすぎる。大誤算だよ)」



