それから母さんが、父さんたちと一緒に家を出て行って。オレとあいつだけになったんだけど、風呂に行けって言ったら、なんか知らないけど胸の大きさを教えてくれた。
……てなことを冗談でも言った日には、流石にあいつも怒るかな。まあそれはさておいて。
どうやらお友達度UPを目指しているらしく、勝手に部屋の掃除もさせてくれなけりゃ、ご飯も作らせてくれそうになかった。
「我が儘だね」
「ご、ごめんっ……」
こんなオレと、友達になんかならない方がいいのに。
だって、友達に酷いことされるのと、友達じゃない人にされるのじゃわけが違う。オレはこれでも一応、あんたを傷つけるのに心の中で線引きしたんだから。
オレだって友達に流石に酷いことできない。言い聞かせるために口にも出した。……だって。もっと酷いことしようとしてるのに。
「(……ごめんね。あおい)」
約束だったからね。時間はあげる。でも、そうなったらオレは、友達として。あんたを傷つけることになるよ。
「行っておいで。ちゃんと待ってるから」
「……うんっ。わかった。ありがとうひな、……悪魔くん!」
なんか、最初の頃のアオイを思い出すんだけど。
それからあいつが上がるまで部屋の掃除をしてた。
「(あ。そういえば、鍋するとか言いながら材料ないかも……)」
出汁は……ある。肉も、冷凍してる奴使ったらいいけど、肝心の野菜たちが……。
「(あ。……そうだ。この間ミズカさんが送ってくれたんだった)」
あれが使えるかもしれないと思って、段ボールの野菜を見たら、……まあ大丈夫そう。
「あとは、あいつをパシって作らせればいいか」
そうこうしてたら、スウェットに身を包んだ真っ赤な顔をしたあおいが帰ってきた。
「あ。ちゃんと温まった?」
「うん! ばっちりだ! リンゴみたいに真っ赤っかだよ~」
「それじゃあ鍋の準備する?」
「うん! するー!!」
って、立ち上がりかけたんだけど……。
「ちょ、あんたまだ髪濡れてるじゃん」
「え? 大丈夫だよ。自然乾燥でも十分」
「はあ……」
「え? ちょっとひなっ、……悪魔くん?」
風邪引いたらどうすんのさ。ほんと、世話が焼ける。
あいつの手首を掴んで、洗面台に連れて行く。
「え? ……え??」
「はい黙ってー」
ブオォーッ!! と、わしゃわしゃーっと、あいつの髪を乾かしてやる。
「ちょ。……じ、自分でやるよ?」
「黙ってって言ったでしょ」
「すみません……」
そして再び髪を乾かす。……触ってるだけで、気持ちがいい。
ブオ~ッ!! と、手を激しくしてるっていうのに、何故こいつは嬉しそうに頬を緩ませて目を瞑っていた。
「(……何がそんなに嬉しいんだか)」
きっと、音が大きくて聞こえないだろうから。
「……ほんとに救われた。ありがとう」
目も瞑ってるし、わかんないだろうから。
「……ごめん」
小さな声で。……そう呟いた。
過去には『ありがとう』と。未来には『ごめん』と。
「……あおい」
最後に愛しい彼女の名を。彼女が気づかないように、そっと呼んだ。



