「あなたは事故現場にいたはずです。彼とハルナさんと三人で。……本当に彼が殺しましたか? 違いますよね。殺したのはあくまでもその運転手だ。現実を受け入れられないからって、彼を殺していいことにはなりませんっ……!」
なんで。三人ともそこにいたことを知って……。
「……彼に突っ込んできそうだったんですよね。その車が」
なんで。……そこまであんたは知ってるんだ。
「それをハルナさんが庇ったのでしょう? よく気がつく人だったんだもの。大事な双子の弟を、助けたに違いありません」
聞いたんだろう。ルニが死んだと。
でも、なんであんたはそこまで……『男のオレ』を『女のハルナ』が庇ったことまで知ってるんだ。
「(……いや。そんなことはないはず)」
もしかしたらツバサが話したのかもしれない、そこまでは。でもあいつが……ルニがオレだなんてことは、気が付いていないはずだ。アオイだって言ってなかったし、……それに、オレは『男』だ。
気づくわけない。……気づくわけ、ない。
「大事な弟を守れて、ハルナさんは誇りだったと思います! それを家族の、母親のあなたが! きちんと彼女がいたことを、彼の存在を! ちゃんと覚えて、守っていってあげないといけない!」
……心に。光が差していく。
あいつが、オレを。ハルナを。ツバサを。母さんを。父さんを……。救ってくれる。
今。……目の当たりにしてるんだ。オレは。
「(……ああ理事長。これは、理事長の『願い』だけじゃなかったんですね)」
あいつの気休めにこんなことをさせるんだと、初めに教えてもらった。自分も助けられなかったことを、あいつならやってくれるからと。だから、これはぼくの『願い』なんだと。理事長はそう、オレにいつだったか話してくれた。
でも、そんなの誰の『願い』でもない。
あいつは、自分がしたことだからって言うんだろう。でもそんなこと、オレは一度も思ったことなんてない。
これは、オレの願いだ。紛れもなく。
オレの。……オレだけの『願い』だ。
「(……オレの願いは。たったひとつだ)」
ハルナも会わせて五人で。また、仲良く。楽しく。暮らしたいだけなんだ。
「(はは。シランさん。確かにそうですね)」
オレの願いを今。目の前で叶えてくれているこいつは……。
「(……オレにも。天使のように見えますよ)」
英雄でも悪魔でもない。花の妖精が。お姫様が。……今のオレには――。
「あなただって言ったらよかったんです。力になるって。支えるって。みんなでハルナさんのことを大切に思ってあげようって。そう言ったらよかったんです! それなのにい……なんなんだこの家族はッ!」
……やっぱり、さっきのは無かったことにしてください。
めっちゃ怖い。閻魔大王かと思ったよ。あいつの怒号が家中に響き渡ったし。
父さんにキレながら説教をして。ツバサもその勢いで言ったらガチで落ち込んだから、「よく頑張った。お兄ちゃん」って言ってあげてた。……ツバサも。これでやっと。本当に救われた。
「君は、本当にお父さん似なんだね。隠して隠して、自分を犠牲にして。……ほんと、不器用さん」
吹っ飛ばされたオレのとこに来て、そう言いながらやさしく頭を撫でてくる。
それが。……すっごい。なんて言ったらわからないけど……。何かが。込み上げてきそうになった。



