すべてはあの花のために➓


 でも。もうそれもやめにしよう。


「なんでー? あれがないと、はるちゃんを殺した息子、思い出しちゃうんだもん」

「……だったら、今ここで殺してよ」


 罪悪感でいっぱいだった。いつも、……いつも。


「は!? おい! 日向!」

「やめろ! 日向! 若葉!」


 いつからだったか。母さんがオレのことをハルナって呼んでから、それが薄れていったっけ。
 みんなして、腫れ物に触るような態度で、視線で。オレと接してこられるよりはまだ、ハルナって呼ばれる度に、気が楽になった。

 ……ああ。オレは、母さんの中では死んでるんだなって。


「……ひ、なた……?」

「そうだよ母さん。オレがハルナを殺したんだ。だから、殺す相手間違ってる」


 もう、……嫌なんだ。何もかも。
 オレをせいでハルナは死んだんだことも。必死に隠してきた母さんのことも。わかってたのに父さんに何も言わなかった自分も。……そう考えてしまう。思い出してしまう自分が。

 オレは、……嫌なんだ。


 オレの首元へ、焦点の合ってない母さんが手を伸ばしてくる。
 ……嫌なんだ。もう。オレは……。


『……大丈夫だよ。君の、せいじゃないから』


 ハルナはオレを守ってくれた。母さんを隠したのは、その時はそうしたいって自分が考えたんだ。父さんに言わなかったのも、その時のオレがそうした方がいいって思ったからだ。


「うん。それでいいよ。……もう。オレも解放して?」

「……ひなた。……ひなた……。……ひなた。ひなた……」


 解放して。母さん。オレにはまだ。することがあるんだ。しなくちゃいけないことがある。


「(一緒に罪は。……背負ってあげられないんだ)」


 あいつを助けるまでは。……オレは死ねない。終われないんだ。


「(黒い汚い、汚れきった。一緒に罪を背負えないオレを)」


『君が悪いことなんて、一つもないんだから』


 過去のオレを。……――殺してくれ。



 ――ドンッ!

 そう思ってたら、あいつにぶっ飛ばされた。


「わかばさんっ。言ったはずです。わたしなら好きにしていいって」


 なんで、また。自分から傷つけられに行ってんだよっ。


「っ、あんた。いい加減に」


 ――しろよって。本気でキレる前に、逆ギレされた。


「(……っ、今度は完全に邪魔なんだけどっ)」


 ほんと、あれだけ過去に縛られ続けたのにさ。


「(……オレも。変われたのか。結局のとこは)」


 あいつがあんなこと。言ってくれたから。


「わかばさん。なんでひ、……彼がはるなさんを殺したんですか」


 オレが言えないことを。あいつが代わりに母さんに言ってくれてた。


「そうですか? でもあなたは知っているんじゃないんですか?」


 言って。……くれてたんだ。