そんなことを、あいつが必死に母さんを何とかしようとしている時にちらりと思ったりしたけど、雲行きが怪しくなった。
「……っ、わかば、さんっ」
あいつの声が、苦しそうに母さんを呼ぶ。
助けに入ろうとした。でも、止められた。あいつの目で。『来るな』って。
「(オレのことは助けてくれたっていうのに……っ)」
オレにはあんたを。助けさせてくれないのかよっ。
でも母さんは、あいつを傷つけることをやめない。
「……っく。……でもあなたは、同じ日にもう一人。一緒に、産んだはずですッ」
「……いいえ。産んではないわ」
「ワカバさん……!」
「同じ日には」
「え……?! ――っ、うっ」
「(……!! っ、あおい……!)」
行きたかった。なのにまたあいつは。……オレらを止めるんだ。
「ぅっ、くっ。わっ、か、……さ」
「その子はねー。はるちゃんを殺しちゃったんだー」
……や、めろ。
母さんの指が。あいつの首を。 キツく締め上げていく。
「そ、れはっ。……ちがいます!」
「いいえー? 違わないわー? だって、あの子のせいではるちゃんは死んだんだものー」
……おねがい。だから……。
「いいえっ! わかばさんちがうんです! あなたの大切なっ。むすめが。……むすこが! そんなことをするわけがない!!」
「しないと信じてたのにねー。殺しちゃうんだもんねー」
そうだから。……ぜんぶ。
「ちがっ。……っく、はっ」
「わたしの大好きな大好きなはるちゃんがね~? あおいちゃん。死んじゃったんだー。犯人なんてどうでもいいんだー。だって殺したのはわたしの大好きな息子だもの」
ぜんぶ。ぜんぶ。オレが。……悪いんだから。
「っは。……わ、かば、……さ……」
「だったらわたしもー。その子を殺しちゃったらいいんだって思ったんだー。だからもう、名前なんて知らないわー? あおいちゃんはあ、はるちゃんのお友だちになりたいんだったわよねー」
いいんだ。オレは。……どうなったって。
「……わ。かっ……」
「あの子はねー、ここにはいないんだー。だからあ、わたしが連れて行ってあげるねー?」
……でも、あいつを。
あおいを傷つけることは。たとえ母さんでも、オレが許さない。
「……母さん。やめて」
こいつをいじめていいのは、オレだけなんだから。
「……? はるちゃん?」
「っけほっ。……はっ、はっ。はあ。はあ……」
助けられた……。もう。こんなことしないで。頼むから。
……変わる、か。
変わるとか、そんなんじゃないけど。
「はる、ちゃん……?」
「母さん。もうやめよ?」
オレはずっと、あいつを助けたいと思って生きてきた。
「なにを?」
「お薬」
でも母さんが、家族がこんなことになって。オレもずっと、罪に囚われてきて。
……壊れてた。それはもう、母さんを隠すと決めた時から。



