すべてはあの花のために➓


 いろんなものが飛んで来た。やわらかいものだって。硬いものだって。
 今まで母さんは、オレには絶対に当ててこなかった。でも、当てに来てるってことは。やっぱり、オレのこと……。


「だから逃げろって言ったのに」


 オレのこと。……恨んでる。心だけじゃなくて。体まで。オレを傷つけようとしてる。
 ……いいんだ。オレが悪いんだから。オレなんか。守らなくていいんだよ。全部。全部。オレのせい――――。


「……大丈夫だよ。君の、せいじゃないから」

「(――……!)」


 頭に何かが当たったんだろう。手でそこを押さえながら、そんなことを言ってくる。


「何言ってんの……」


 ……やめろよ。やめろ。
 何。許されようとしてんだって。またオレの中に、黒いものが渦巻いてくる。


「君が悪いことなんて、一つもないんだから」


 ……やめろよ。そんな。言い方。……まるで……。


「……何。ツバサに何か聞いたの」

「何も。聞いていないよ」


 何も聞いてないのに。……そう。言ってくるのは。


「……っ、だったらなんで――」


 母さんのことも。あんたが。
 ……あの家が絡んでるってことじゃないか――。


『大変でしょう? いろいろ』


 ……そういえば。言ってたっけ。秘書が。
 そうだよね。秘書が知ってるんだもんね。

 その時、母さんが思い切りオレ目掛けてまな板っぽいものを投げてきた。


「――っ」


 また。そうやってオレを庇う。自分を傷つけて。他人を守って。
 ……自分で傷つけないでよ。あんたのこと。傷つけていいのは。……オレだけだ。


「っ、……待ってて」


 オレの頭を抱えるように抱き締めて。そう呟いた気がした。


「もう、隠すのは終わりにしよう。……でも、きっと大丈夫。すぐによくなるよ」

「……っ、だから。何で知っ」


 なんで。……もう。最初から知ってたの?

 不安で揺れるオレの瞳を見つめながら、オレの口に指を当ててふわりと。……やさしい顔で笑う。


「言いたいことがあるの。だから、あとでわたしに時間をくれたら嬉しい」


 そう言ってあいつは。母さんの方へと歩いて行った。


 ……言いたい、こと。……なんだろう。
 初めは、……オレと友達なんかやめるとか。嫌いだ。……とか。そんなことをちらっと思ったけど。


「こんばんは。ワカバさんと、お呼びしてもいいですか?」


 今でも暴れる母さんに、必死に声を掛けて……。


「あ、そうか。……ワカバさんはじめまして。わたしの名前はあおいと言うんです。お日様をなくしてしまった、お花の名前です」


 母さんを静めてくれてるあいつを見て……。


「(……そうだよね。あいつにとって。オレらは……)」


 大切な。……友達なんだ。


「(そういえばオレ、あいつと喧嘩したままなんだっけ)」


 なんか、そんなのすっかり忘れてた。
 ただずっと。会って。声が聞きたいって。笑った顔が見たいって。……そう。思ってたから。


「(……すご。あの状態の母さん落ち着かせたし)」


 きっともう。あいつにとっては『願い』もあるけど、関係ないんだろう。


「あおいちゃんはー? あの子のこと、好きー?」


 ハルナの友達になりたいんだと。そう話をしていた。だから母さんは、そう聞いたんだけど……。


「はい。不器用で口が悪くて悪魔だけど。友達が大切で。努力家さんで、隠し事がとっても上手な彼が、……わたしは大好きですよ」


 そう言ってくれるだけで。……心がふっと。軽くなった気がした。


「(…………ばか)」


 嘘だとしてもいい。嘘でも、あいつから一度でもそう言ってもらえて。嬉しかった。
 でも。どうやったってオレは。……許されない。


「(母さん、ちゃんと話してる……)」


 ということはまだ、暴れる可能性が。あいつを傷つける可能性がある。あいつが、母さんを何とかしようと、いろんな話をしている。あいつなら。……なんとかしてくれるんだろうな。


「(どうせ。アオイが作った薬。……なんでしょ)」


 きっと、アオイもわかってたんだ。いや、アオイはわかってたんだ。こいつはオレらの名前で、犠牲者だと結びつけることなんてできなかったんだから。


「(……ったく。またアオイの奴、黙ってたのか)」