――――時は、去年の年末に遡る。



「エリカさん、今よろしいですか」


 連絡もなしに、部屋に入ってきた最近やっと使えそうになってきた道具。


「なあに? 用事がある時は、ちゃんと事前に連絡するようにって、あれほど言ってきたのにー」

「す、すみません。ですが、今すぐに耳に入れてもらいので」

「ん? どうしたの?」

「……その。ちゃんと最後まで聞いていただけたらと思うんですが」

「だから何。早く言ってよ。こっちはあんたなんかに無駄な時間割いてる場合じゃないのよ」

「……脅されているんです」

「……は?」

「この間のクリスマスパーティーの件なんですけど。……目撃者が。いたみたいで」

「……レンくん。最期に言いたいこと、あるかしら?」

「ちょっ。お願いです! 最後まで聞いてください!」

「使えない使えないとずっと思ってたけど、上手くいったかと思えばこの失態。……やっぱり、早くから切り捨てておくべきだったわ」

「お願いですエリカさん! 話を聞いてください!」

「なんでゴミ屑の話なんか聞かないといけないの。ふざけないでよ。……ああ、死んだことは何年後かぐらいに言っておいてあげるわ。ちゃんと言ってあげるんだから、有難く思いなさい?」

「エリカさんお願いします! もしかしたら、エリカさんが言うような『使える道具』が手に入るかもしれないんです!」

「はっ。何を言い出すのかと思ったら、死に際がそんな醜いと、一生あたしはあなたのことなんか報告してあげないわよ?」

「……っ、で、でも! 聞いて損は絶対ないはずなんです!」

「あーうるさいわね。何で死にたいの? それぐらいは考慮してあげる。撲殺? 刺殺? 薬殺? 毒ガスとかでも面白そうよね~」

「みっ、……見られた相手というのが」

「まだ言うの? 決めたわ。刺殺にする。ナイフならすぐに出せるし」


 そう言ってナイフを取り出し、使えない道具へと向ける。


「っ」

「はい。今度はちゃんと言いなさい? 最期に、言いたいことはあ――」

「ちょっとー。やめてくれません? 目の前で知り合いが死ぬのなんて、もう見たくないんですけど」


 そう言って、部屋の扉をノックもせずに入ってきたのは……。


「……あなた。どうしてこんなところにいるのかしら?」


 紛れもない。目障りで仕方がない、あの政治家の息子だ。