しかも、抵抗しようと思ってもマジでビクともしない。あーあ。ご飯ちゃんと食べておけばよかったかも。
「……下ろしてくんない」
「お姫様抱っことどっちがいい?」
降参しようと思ったのに、そんな選択肢を持ちかけられる始末。
「……言ったじゃん。男としては、女に運ばれる時点でプライドが許せないんだって」
「今はいいんだよ。あの時より酷いんだから」
「は? ちょ、マジで下ろしてよ。歩ける」
「そうかもしれないけど、…………させてよ。今は」
「いやだし。離せ」
「心配。……させてよ」
「…………。そっちトイレ」
「おっと。危ない危ない」
ほんと、男として情けない。ほんと、……やさしすぎ。
「……お母様は? まだお話しできる?」
「……何。知ってんのあんた」
ああ。そっか。もう、……全部知ってるんだね。
「答えて」
「……多分、無理」
あーあ。もう、本当に……。……お終いだ。
「じゃあ、まずは君からだね」
「は? だから何が」
……あれか。あんたよりも先に、オレが『お世話になる』のか。
どうやら話をするみたいだったので、母さんが起きてくる前に話してさっさと帰ってもらおう。
「……離してくんない?」
「いいじゃんこのままで」
ソファーに下ろしてくれたのはいいけど、これでもかというほどくっついてくるんだけど。
なんで。知ってるのに。そこまで知ってるのに。オレに、……触れてくるの。触れてくれるの。
「(……あ、そっか)」
願い、だからか。
これも、あんたのせいとか思ってんの?
違うよ。これは全部。全部。オレが悪いんだから。
全部。オレのせいで。何もかも……。
だったらきっと、こいつがオレに触れてくるのなんて。最後なんだろうな。
「…………っ」
「ん? ……何。どうしたの」
オレの腕に絡めてくる手の力が、強くなった気がした。おかげで今、凄まじい殺気が目の前からひしひしと伝わってきてるけど。
「……ちょっと。実感中……」
「…………そ」
ハッキリ言ってよくわかんなかったけど、それからみんなと話をした。
ツバサが、ただ父さんにわかって欲しくて女の恰好してたわけじゃないことくらい、だいぶ前から知ってる。
「(だから、オレのせいなんだって)」
オレなんかをハルナは庇ったから、父さんと母さんは喧嘩して、母さんは変な薬に手を出して壊れて。ツバサは、父さんにわかってもらおうと、オレが家で『姉』として扱われてるから、自分が女になって少しでも気休め程度でも……って、どうせ思ったんでしょ。ほんと、バカな兄貴だよね。
「母さんにずっと陽菜って呼ばれてたお前を、何かしてやりたかった」
わかってるよ。そんなこと。ずっと、……わかってた。
「でも、何かしてやるだけじゃもう嫌なんだ」
ほんと、ツバサも変わったよね。ほんと、……みんな強いよ。
「助けるよお前のこと。母さんにちゃんと呼んでもらおう? それからまた、みんなで一緒に暮らそう」
……たす、ける……? 助けられたら、母さんはどうするのさ。
違うでしょ。オレじゃなくて、助けないといけないのは母さんの方だ。オレなんかのせいで壊れたんだから。
もういいよ。オレに何かしようとしないで。お願いだから。
また。……渦巻いてくる。罪悪感。
……ああ。まただ。ほんと、やめてくれよ。こんな自分。……ほんと、吐き気がする。
父さんも変わった。ほんと、素直に喋るようになったね。父さんも変えたの? ……すごいね、ほんと。



