すべてはあの花のために➓


 ………………は?


「結構です。お帰りください」


 バカだ。やっぱり相変わらずバカだ。


「ひっ、……君も、話さないといけないこと。あるでしょう?」


 ……話すこと? そんなのない。
 なんであんなこと、あんたにわざわざ嫌われるとわかってて話さないといけないのさ。


「君をわたしは助けに来たんだから」


 そう言われて気が付いた。ああ、ツバサになんか聞いたんだって。
 ……何を聞いたんだ? オレが母さんに、ハルナって呼ばれてること? それとも、オレのせいでハルナが死んだこと?

 ……知ったんならいいじゃん。別にオレは、あんたに助けて欲しいなんて思ってない。変えて欲しいなんて、思ってない。思えない。思っちゃいけないんだよ。


「……何。ツバサになんか聞いたわけ? へえ。プライバシーの侵害なんだけど」

「別にいいよ。訴えるなら訴えればいい」


 ……帰れよ。頼むから。ここにいたら、……もう一つ。誰にも言ってないことがバレるかもしれないんだって。
 ……怖いんだ。母さんのことがバレて。みんなに。……あんたにっ。嫌われることが。何よりも。

 オレは。…………こわいんだよ。


「……もう、大丈夫だ。君一人が頑張らなくていいんだよ」


 ……何、言ってるの。


「ちゃんと話そう? きっと。ちゃんと綺麗に収まるから」


 ……ちょっと。待って。


「はっきり言うね。……君がしていることは間違いだ」


 なんで、……あんたが知ってるの。……怖い。怖い。こわいっ……!


「――触んな!」


 いやだ。いやだいやだ……!
 わかってるんでしょ。間違いだって。……だったら。こんな汚いオレなんかに。そんなやさしく触れようとするなよ。触れちゃ。……っ。だめなんだよっ。


「……帰れよ」

「いやだ」


 お願いだから。これ以上……。


「帰れ」

「いいや。帰らない」


 こんな。オレが、汚れきってるなんて……。


「帰れって言ってるだろ!」

「帰らないって言ってるだろ! こんの不器用男がああッ!!」


 あんたにだけは。……知られたくなかったのに。


「さあみなさん? 行きますよ~」

「……っ、は、なせ……ッ!」


 なのに、鳩尾にめっちゃいいパンチ食らった。……ダメだって。今ただでさえ弱ってるんだから。仕舞いには担がれて運ばれる始末。


「……っ、おろ、せ! 帰れ!」


 そうやって、力の入らないパンチであいつの背中を必死に叩く。
 ……ダメだ来たら。ダメなんだってっ……!


「うん。いいよ。それで君の気が済むなら。わたしはいくらでも殴られてあげるから。だから今は、話をしよう?」

「(……ばか)」


 殴らないよ。そんなの。もう……。
 ……お終いだ。もう。オレはみんなとも。友達じゃいられない。