すべてはあの花のために➓


「え。……だれ?」


 チャイムが鳴り響く。てかいつの間にか母さんどっか行ってるし。
 部屋戻ったのかな。静かだから寝てるかも――――。

 ピンポンピンポンピンポン!!


「……誰だよ」


 あれから結局、まともにご飯も食べられないし、食べても吐くし。睡眠だって、いつの間にか死んだように寝てたくらいで。……ほんと、生きてるのが不思議なくらいだ。
 まあ今なら母さんいないし、暴れはしなかったから部屋も綺麗だけど。


「……ったく。誰だよ夕飯時に」


 ま、うちにはそんな時間も余裕も今はありませんけどね。
 上手く動かない体をなんとか動かして玄関へと向かう。行ったら外が騒がしかった。少々騒いでも大丈夫だろうけど、流石に家の中よりは外で騒いだら近所に迷惑だ。しかも夕飯時に。


「もう、……誰だよ」


 みんなには会えないって言ってるんだ、そもそも来ない。騒がしい声になんだか若干イラッとして、思い切り扉を開けた。


 ――ガンッ!!

 ……あ。なんか当たった。まあ気にしないけど。


「ちょっと。近所迷惑なんですけど」


 そう言って、目の前を確認したら――。


「(は。……な、んで……)」

「日向。ちょっと話があるから入れて欲しい」


 ……父さん?


「母さんとお前と、話したいことあるんだけど」


 ……ツバサ、だよね。脱オカマしすぎてわからなかったよ一瞬。

 でも、……話? 話、……話、ね……。


「オレらは話すことなんか何もないけど」


 なんで。……なんで来たんだ。


「……!! っ、ひ」


 なんで来た。来るなよ。帰れよ……っ!
 話すことなんて、オレにはない。いいや。こんなこと、絶対に話したくない。なのに……っ。


「(なんであんたが。一番来て欲しくないあんたが。……ここにいるの)」


 お願いだから。早く。……早くッ。


「(母さんが見つかる前に帰さないと……っ)」


 話。……はなし、ハナシ……。


「今更。そんなのもうどうだっていいし。オレらのことは放っておいてよ」


 知ってるし。知らないのあんたらじゃん。
 なんで言わないといけないの。言いたくないんだってこっちは。


「(もうオレのことは。……母さんのことは放っておいて――)」


 そう思って扉を閉めようとしたら、何かに阻まれた。



「(……あおい)」


 会えて嬉しかった。声が聞けて。姿が、見られるだけで。

 でも、……来ちゃダメだ。
 言ったじゃん。嫌なんだって。踏み込んでくるなって。近づくなって。


「晩ご飯を一緒に食べましょう!」