久し振りのキクの家。みんなが集合すると流石に狭い。
トーマが大学に受かって春からこっちに来ることや、オウリが喋ってることにトーマが感動してたり、なんで理事長がいるのかは意味不明だったけど。
「じゃ。オレそろそろ帰るから」
そろそろ返らないと不味いと思って立ち上がったら、みんなも帰ろうとするから、「流石に合わせなくていいよ」と。「また3月に」と言ってからキクの家を後にした。
「途中まで送らせろ」
そしたら案の定トーマが付いてきた。
さっきトーマの顔が、オウリの声が聞けて気持ちが悪いくらい嬉しそうに緩みきってたから、「それはキサにしか直せないよ」って言ったら「もうちょっと方法考えろ」って返された。その時はみんながいたし、オレは「だったらその不細工な顔をもっと加工してあいつに送りつけてあげよう」って返したんだけど……。
「わかってたんだろ」
「……何が?」
本当、何がだ。何のことを言ってるんだか。
「全部だ全部」
「全部? 流石に今、地球が何回回ったとかわかんない」
「葵ちゃんのこと。さっきの会話も。……ま、俺がみんなの前で言ったから悪かったけど」
「…………」
「俺に電話した時も、葵ちゃんがまだ学校にいるの、知ってたんだろ。葵ちゃんが泣いてるのも。……なんで泣いてたのかも、わかってんだろうな」
「…………」
何も返さないオレに痺れを切らしたトーマが、肩を掴みかかってくる。
「……お前、何考えてる」
「別に」
「お前、おかしいぞ」
「何が」
「どうしたんだよ。いつもの返しは」
「別に。面倒くさいだけ」
「図星だからだろ」
「…………」
「ほらそうやって黙る」
「…………そんなの」
肩を掴んでる手を引き剥がす。
「オレに。どうしろって言うんだよ」
「……日向?」
「わかってるよ。ああわかってる。さっきトーマが言ったのは全部、オレがあいつを泣かしたからだ」
「…………」
「わかってるよちゃんと。オレのやり方がおかしいって。……そう、言うんだろ」
「日向……」
「知らないよ、これ以外の方法なんて。できないよ、これ以外の方法なんて」
「決めつけるんじゃねえよ」
「決めつけてない。できないんだよ。どうやったってオレには」
「じゃあこう言う。……変われよ、日向」
「は? ……変われ?」
「お前だって、葵ちゃんが心配だったんだろ」
「オレは……」
「でも、お前のやり方じゃ葵ちゃんは傷つく。あれじゃあ、葵ちゃんにも日向のことがわかってもらえない。……あれじゃあ日向のこと、葵ちゃんは怖がって終わりだ。お前がどれだけ葵ちゃんが大事なのか、大切なのか、大好きなのか、全然伝わらない」
「……それでいい」
「おま、……この期に及んで何を」
「トーマの言った通り。正解。流石だね」
「……どういうことだよ」
「オレは、あいつを傷つけるためにあんなことしたってこと」
「…………」
「オレは、あいつに嫌われるんだ」
「……おい」
「あいつにはオレのことを絶対にわかって欲しくない。だから、これでいいんだ。どうせ嫌われるなら、今嫌われた方がいい」
「……本当に、そんなこと思ってんのかよ」
「だったら何」
「お前、やっぱおかしいわ」
「そんなの、だいぶ前から知ってるよ」
「どうしたんだよ。なんでそんな……」
「……オレだってね、変われるもんなら変わりたいよ」
「日向?」
ツバサは変わった。それは、あいつが変えてくれたから。自分じゃどうにもできなかったから、人に変えてもらうしかないんだ。
でも、そうなったら……そいつに変えてもらうってことは、自分のことがバレるってことだ。



