すべてはあの花のために➓


「ちょっと。どうし…………え」

「あ。……どうも」


 大きな声が外まで聞こえていたのか、先程まで話していたケバ嬢が、ガチャリと扉を開けて入ってきた。


「え? 君、まだいたの?」

「はい。ちょっと捕まって。……ていうか、ちょっと様子がおかしいんですけど」

「……そうみたいね」


 彼女は秘書に、無理矢理何かを飲ませていた。


「……彼も、あたしと一緒なのよ」

「え?」

「大事な人を、なくしたの。……あたしの場合は、ただ『使えない』って捨てられただけだけど」


 薬か何かを飲んで落ち着いたのか、秘書はぐったりソファーへ横になっている。


「……何か言ってた? 彼」

「いえ。なんかいきなり写真出されて、破り出して、……壊れ出した?」

「よくわかる説明だったわ」


 ま、現状そんな感じだしね。


「遅くまでご苦労様。もう帰りなさい」

「……この人、大丈夫なんですか」

「……まあ、長い(、、)から」

「………………」

「また何かあったら報告してちょうだい」

「はい。……じゃ、さよなら」


 そう言って、今度こそオレは屋敷を後にした。


「(何となくだけど、内情がわかってきたか……)」


 狂ったように愛してしまった人の面影を追い求めた、秘書のミクリ。捨てた男を見返すために狂った、妻のエリカ。狂った二人と同じように、狂わされてしまった夫のアザミ。


「(あれだけ異常だったんだ。多分、あの部屋のどこかに、望月に繋がる何かがあるに違いない)」


 何とかして調べるしかない、か。
 そうこうしてたら、スマホに連絡が入った。相手はキサ。どうやらトーマが来てるから、大至急キクの家に集合とのことらしい。


「(あー。なんか言われそう……)」


 まあ、そんなに話しては来ないだろうけど。


「(でも、オレも今日でみんなに会えなくなるし……)」


 あとは、……ずっと責めるだけだ。


「(今日はちょっとだけ遅くなるからね、っと)」


 見られるか知らないけど、一応メールだけ送ってキクの家へ向かったのだった。