すべてはあの花のために➓


 そう言い切る前に、秘書がテーブルへ、とある写真をばら撒いた。


「――――――」


 声が、出なかった。
 体育祭の打ち合わせの時のもの。文化祭の時の、スタンプラリー。バンドの様子……。そして、オレらが先生のところにお見舞いへ行っている写真。とにかく、たくさんあった。


「私も忙しい身ではありましたが、あの三日間の空いた時間で私自ら赴き、葵様の監視をさせていただきました」


 ……監視? こんなの、監視じゃない。


「どうかされましたか?」

「……あんた、異常でしょ」


 だって。写ってるのは全部、あいつだけ。そして……。


「……何。あんた、人が苦しんでるのを見るのが好きなわけ」


 体育祭の打ち合わせは、校外から撮られたもの。窓の隙間から、あいつの顔色が悪い写真が、……何枚も。
 文化祭では、多分初日にオレらのところに来る前の。……何かから必死に逃げてるような、そんな様子の写真が何枚も。
 それからバンドでは、多分視線に気が付いて。一瞬眉を顰めた瞬間と、涙を流しながら歌っているところが、……何枚も何枚も。

 極めつけは、病院で過呼吸になる前から倒れて寝てるその間の写真が、何枚も何枚も。……何十枚とあったんだ。


「……君は、死にそうなくらい人を好きになったことがありますか」

「…………」

「君ならあると思っていました」

「……何も言ってないんですけど」

「言わなくてもわかります。私と同じ目をしている」

「(え。い、一緒にしないで欲しい……)」

「一緒にしないで欲しいですか。でも、君もその人のためなら何でもしそうですけど」

「……はあ。何が言いたいんですか? そろそろ帰りたいんですけど」

「まあそう言わずに。これから仲良くしていきましょう」

「はあ(帰りたい……)」


 正直言って、何か情報を掴むべきなんだろうけど。こんな写真見せられたら、余計気分が悪い。


「あ。もしかして欲しいですか? 写真」

「いりません」


 こんなの持ってるのがバレてみろ。即行で引かれる。いや、流石にこれは捕まるか。気持ち悪いし。