「(相変わらず、胸糞悪い……)」
報告が終わってから、ケバ嬢の部屋を出て帰ろうとしていた時だった。
「ああ。ご苦労様です九条くん」
「……えっと?」
「そうか。自己紹介がまだでしたね。……乾実栗と言います。どうぞよろしく」
「あ。……九条日向、です。もしかして秘書の人?」
「よくご存じですね。どなたからかお聞きに?」
「秘書がいるってことくらいで。勘で言ったんですけど」
今まで一度も会わなかったのに、ここに来てようやく会うことができた。
「(別段、悪そうには見えないけど……)」
「そうだ。ちょうど仕事が今キリがよかったので夕食を戴こうと思っていたんです。よろしければ九条くんもどうですか?」
「え」
……どうしよう。流石に、毒を盛られることはない、かな……。
「ふっ。毒なんて入れませんよ。それとも、お家の方が大変ですか?」
「……!!」
なんで。……なんで、こいつは知って……。
「君は確か、お母様の方でしたか。それはそれはさぞ、大変でしょう。……いろいろ、ね?」
「……何のことかよくわかりません」
「白を切りますか。まあいいでしょう。……それで? どうしますか。夕食、一緒に食べられそうですか?」
「……あまり、長居はできません」
「結構ですよ。それでは行きましょう」
何もかもお見通しだと。隠しても無駄だと。そう、眼鏡の奥からひしひしと伝わってくる。
「(それに……なんだ。この。……っ、気持ちの悪さは)」
初めは、そう思わなかった。でも、見えないところから何本もの生温かい触手で、絡め取られるような。そんな……。
「(……!! ちょ。ちょっと、待って……)」
てっきり、アイかと思った。あの、文化祭であいつを追っていた視線の正体は――……。



