すべてはあの花のために➓


┌                  ┐
 件名
 :無題

 内容
 :理事長室の隠し扉の中で泣いてる。

  多分だけど今日はずっと
  一日そこにいそうな気がするよ。
└                  ┘


「(……って、言われてもねえ)」


 泣かした本人が行ったって。オレ、泣かすことしかできないんだって。
 ガラガラと、音を立てて崩れたのは、オレの成功率。いや、冗談だけどこれもある。


「(だって、今まで失敗したことなかったのに……)」


 また正の字加わったじゃん。どうしてくれるんだよ、オレの無敗記録。


「(仮面、崩れなかった。ほんと、すごすぎでしょ)」


 ほんと、崩れそうだったのはオレの方だった。ああ言っておきながら、もう少しで『ごめん』が出てきそうだった。


「(……ほんと、ばか)」


 なんで泣かないの。オレの前で、泣いてくれないの。


「(ごめんって謝ったって。……許されるわけ、ないじゃん)」


 ほんと、嫌気が差す。こんな自分。

 それからあいつから連絡が来た。内容は、《迎えを呼んで帰った》ということ。……理事長も言ってたけど、オレも、あいつはまだ帰ってない気がする。
 アキくんが、自分は振られたと。そこはちゃんとあの手紙でわかったみたいで、みんなにそれは話してくれた。ひとまず、みんなも落ち着いたようだ。

 帰りは寄るとこがあるからと、一人で報告をしにあいつの家の裏側へと繋がる道を歩いていた。



『……もしもし? どうしたんだよ珍しい』

「合格おめでとう」

『……なんで知ってんだよ』

「桜なんだってね。ウケるね」

『どういう意味だよ……!』

「こっち来るんでしょ? もう着いた?」

『……なんで知ってんですか』

「アヤメさんとナツメさんとメル友だから」

『かーさん。とーさん……』

「大丈夫大丈夫。オレしか知らない。キクんとこ泊まって家探すんでしょ?」

『全部漏れてる……』

「息子いじるの大好きなんだね。オレ感動しちゃった」

『そんなことで感動しなくていい』

「いやー。それにしても二人とも、いい仕事してくれるわー」

『いやいや。人の親勝手に使うなよ』

「あ。じゃあトーマ使おうかな」

『は? どういう意味だよ』

「今どこ? 学校?」

『……どうしてそこまで知ってんだっつの』

「いや、普通にキクまだ仕事だし。家入れないから学校行くのかと思って」

『……まあ合ってるけど』

「じゃあせっかくだし、あいつにも連絡してやってよ」

『は? 意味わかんないんだけどマジで』

「合格したこと報告すればいいのにと思って」

『いやするけど、それは直接会って』

「取り敢えず、電話でもいいからしてやってよ」

『……なんかあったのか』

「別に? トーマも声聞きたいでしょ?」

『いやそうだけど。……なんかお前、気持ち悪い』

「失礼な。でもきっとさ、あいつも喜ぶと思うんだよね」

『……そうだな。今からしてみるわ』

「うん。じゃあね、トーマ」

『ほーい』

「…………頼んだから」

『え? なんか言ったか?』

「おやすみって言っただけ」

『お、おやすみ?』


 トーマならきっと、涙を止めてやれる。大丈夫だ。きっとあいつはまだ、学校にいるから。


「(だから、ちゃんと会って報告できるよ)」


 後は頼んだからと。心の中で呟いて、クソデカい門を入っていった。