「電話、来ないってわかってんのになあ……」


 やっぱり今日も寝られなかった。ま、この半月で徐々に慣らそう。流石にこの半月もこの調子じゃ、本気で死ぬ。


「寝られる時に寝ておかないと……」


 何が起こるかわからない。
 今日は2月14日。バレンタインデーだ。


「……ていうかあのジンクス作ったの誰だよ。ほんと、後輩たちの身にもなってよね」


 時刻は6時。早く行って隠れておかないと、終業まで捕まること確定だ。


「みんなは、どこに隠れているんだろう」


 恐らく、見つかりたくないけど、見つかりたい奴もいる。それはオレだって同じ。まあ、オレの場合仲直りなんて端からするつもりなんてないけど。

 ポケットにリボンを忍ばせて、オレは校内を歩いた。


「あの時一錠半使ったから、もしかしたら二段階で忘れて、停電まで記憶が抜けたりしたのかな」


 あるとは言いきれない。でも、……ないとも言いきれない。


「一か八かで、あのカードも出すか……」


 半錠分のトリガーが何かはわからない。英語教室にオレがいることか、それともあの香水か。


「でも、可能性はこれが一番高い気がするんだよね」


 だってあいつがこれを見た瞬間、停電が起こったんだから。


「ま、思い出したらまた消せばいいし。予備はカオルからもらったし」


 君は、オレを見つけられるだろうか。見つけた時はすでに、思い出していたりするんだろうか。

 ……見つけて欲しい。オレが、絶対に泣かせてあげるから。
 見つけないで欲しい。オレのことを分かってくれるとか。許してくれるとか。そんな錯覚に陥るから。


「ここまで来られる? 来たら思いっきり、泣かしてあげる」


 だって、『ここ』へ来たということは、何かしら引っ掛かるものがあるということだ。


「……あれだけ消したのに、ここに来るとか」


 やめてよ。決めたんだから。
 揺らぐ、じゃん。オレの決意が。