「兄貴だからって引くの、葵ちゃんのこと」
「だから言ってるだろ。応援してやりたいんだって」
「だから、兄貴だからって諦めるの」
「誰も諦めるって言ってねえだろ」
「矛盾してるじゃん」
「……なんで杜真、そんなにつんけんしてんだよ」
「そんなの、……あんな幸せそうな顔、葵ちゃんがしてるからじゃん」
「お前も嬉しいんだろ? 日向にそういう奴ができたこと」
「嬉しいに決まってるだろ! あんな拗れた子見たことなかったし。将来心配してたんだから」
「……なるほど。葛藤してんだ」
「葵ちゃんじゃなかったらよかったのにとは思ってる」
「ま、ほどほどに。今葵にちょっかい出したら、杜真この世から消されるかも知んねえし」
「隠れてする」
「ははっ。……すっげ。覚悟半端ねえ」
「……ねえ柚子。こんだけうるさいのに二人爆睡なんだけど」
「だね。どれだけ二人とも寝てなかったのかな?」
「情報によると、日向は1日からまともに寝られてなかったみたいね。あっちゃんは、4月入った頃から寝たり寝てなかったりって感じ? 月雪くんが無理矢理寝させたらしいけど、それもちょっとだけだって」
「よくやるねえ二人とも」
がやがやと、うるさい男たちの会話を聞き流しながら、そんな会話をしていた。キクはというと、ちょっと離れたところでスパスパと煙草を吸っている。
「……日向驚くかな。入れ替わってること、最初から知ってたら」
「でも、きっとこうでもしないと、ひなくんは自分から話とかできなさそうだよ」
「確かに確かに。……今頃陽菜も、やっと安心してるんじゃないかな」
「きっとひなくんのこと、褒めてあげてるんじゃないかな?」
「……陽菜の代わりに、なってあげられてたかな」
「何言ってるのお。きさちゃんはきさちゃんだから、誰かの代わりなんてなれないよ? だから、姉みたいなきさちゃんに、ひなくんもたくさん助けてもらえて感謝してると思う」
「……うん。そっか。起きたらめちゃくちゃいじってやろーっと」
「それよりも先に、化粧品一年分で買収されたこと忘れないようにね」
「……よ、よし! 温かい目で見守ってあげることにしようっ……!」
「きさちゃん……」
――……さあ。本当にそろそろ起こしてあげないと。彼らのためと言っても過言ではないパーティーが、始まってしまいますよ。



