『……はい。どちら様ですか?』

「ご無沙汰してます。ヒナタです」

『日向くん!? ええ?! どうしたの?!』

「お、お元気そうで何よりです。アカリさん……」


 この人も、オレはなんとか駒にしたい。


「今日はアカリさんだけですか? サツキさんは」

『あの人はもう帰ってこないわ』

「また喧嘩したんですね」

『そうなの! 一生懸命ご飯作ったのに!』

「それはサツキさんが悪い」

『でしょでしょ? でも、謝れば許すつもりだから、帰っては来ると思うわ? そう、あの人が謝れば』

「そ、そうですか……」

『それにしてもどうしたの? あの人に用?』

「……あの、今日あいつとユズ来ますよね」

『あいつ…………葵ちゃん?』

「はい。……その、あいつのことで話があるんですけど」


 それから仮面のことをユズのように伝えたあと、あいつを一緒に助けて欲しいと。協力して欲しいと伝えた。


『え? そんなの当たり前じゃな~い』

「でも、結構危険なんです」

『でも、日向くんは助けたいって思ってるんでしょう?』

「はい」

『あたしたちも一緒。あなたのことも、あたしは危険なことから守ってあげるわ』

「アカリさん……」

『何をしてあげたらいいかしら。ふふっ。あれだけしてくれたんだもの。桜庭をあたしが使ってあげるわね』

「ははっ。ほんと。お母さんって心強いですよね」

『日向くん……?』

「オレが電話越しでもそう思うんです。……あいつだって、そう思うに決まってる」

『……何か、あったの?』

「……アカリさん。あいつのこと、みんな大事なんです」

『え? ええ、そうね?』

「だから、絶対に助けてやりたいんです」

『……ええ。わかってるわ』

「あいつを助けられる方法は、あいつがオレらに『助けて』って言うことなんです」

『え?』

「あいつはそれすら言わないんです。……自分で何とかしようとして、苦しんでる」

『……日向くんは何か、知ってるのね』

「はい。でも、あいつから聞かないといけないんです」

『……わけありなのでしょう?』

「わけは、また話します。……今日はあいつのこと、ちゃんと見ててあげてください」

『見ていてあげる、ね……』

「きっと勘のいいアカリさんのことです。何かおかしいなって、すぐに気付くかと」

『初めて会った時から、ちょっとおかしな子だとは思ってたわ?』

「それは致し方ないですけど……。あいつのこと、何かあったら支えてあげてくださいね」

『日向くん。あなたも何かあったら言いなさい』

「オレですか? オレは大丈夫ですよ」

『そう聞こえないから言ってるのよ』

「……じゃあ、何かあれば頼ります。今日はあいつのこと、笑わせてあげてくださいね。それじゃ」

『ちょ、日向くん?! 話はまだ』


 アカリさんが話してる最中でも、途中で電話を切った。


「……すみません、アカリさん」


 気持ちだけ、有難く受け取っておきます。



「日向くん……」


 そんなのもう、何かあったんだって言ってるようなもので。


「はあ。……なんで気づいてあげられなかったのかしら」


 聞いてこないでくださいって。ひしひしと伝わってきて。


「……若葉ちゃん。あなた、何してるのよ」


『母』が心強い存在だと、彼はそう言っていた。


「達観してるようで、なんだかもう、壊れそうだったわ」


 きっと、恐らくずっと前からだったんだ。


「……ああ。ほんと。そうなる前にどうして気づけなかったのっ」


 自分の家のことで頭がいっぱいだったからだ。他の子のことにまで、しっかり目を向けられていなかった。


「でも、……葵ちゃんも、ね。彼のためにも、彼女を助けましょう。そのあとは、必ず彼も」


 過去の自分に嫌気が差す。ほんと、ちゃんと見られてないじゃないか。
 悔しくて、悔しくて。……もしかしたら夫にも当たって、帰ってくるなとか言いそうだった。