そしてまた。……どこから取り出したのだろうか。
淡い桜色のしっかりしたその箱の中には、手の平サイズの透明なドーム。その中には、たくさんの桜の花が咲いていた。
「ここまで、とてもとても長い時が流れました。それでも彼らはこうして、こんな箱になんか囚われることなく、自由に生きていくことでしょう。これからの未来、彼らの行く末を、……どうか見守ってくださいね」
それを手前の真ん中。よく見える場所へとそっと飾る。
そしてゆっくりと立ち上がり、両手を合わせた。
「……もう、あなたのことを隠す必要も無くなりました。こんな形で、夫にも息子にも黙っていたこと、怒っていますか? きっと、やさしいあなたは、そうは言わないんでしょうね。今度は、息子さんも連れてきます。時間はかかるかも知れませんが、いつか必ず。あなたが愛したやさしい彼も、連れてきますね」
一歩、また一歩と離れる。
「また来ます。今日は今からパーティーみたいなので。……それでは、また。アズサさん」
そう言うと、傾きかけた夕日がきらりと光り。やわらかく風が頬を撫で。やさしい香りが、そっと鼻を掠めた。
きっと、“彼女”も安心してくれただろう。……そう、思った。



