そして最後にヒナゲシを――。
「彼の場合は、隠して隠して。自分のせいだと、何度心の中で言っていたのでしょう。それはきっと、彼自身も数え切れないくらいでしょうね。母親も、きちんと彼の名前を呼んであげられたみたいです。後遺症もなく回復へと向かっているみたいで、きっとまた彼が待っている家へ帰ってくるのも、時間の問題でしょう。彼にとっても、彼女が唯一の支えでした。こんな自分のことを太陽だと。そう言ってくれる彼女だけが。彼女を助けたい一心で、どんな無茶も無理も彼はしてきました。たとえ、自分が犯罪に手を染めようとも。彼女が助かるならと。そして、彼女の幸せさえも自分が決めて。駒だなんだと言う割には、最後にはいつも『ごめんなさい』と言うんですよ彼は。……こちらが彼にお願いをした立場だというのに。でも、彼の集めた駒は、それはそれはやさしすぎる方たちばかりで。それでいて、一番近い駒には、最後の最後で裏切られたみたいですけどね、いい方向に。彼をずっと助けたいと思っていた、最高の駒たちからのプレゼント。今頃きっと上手くいってるんじゃないかと思いますよ」
木箱から出した花たちを、たくさんの花たちに囲まれている彼女の元へ、そっと添えてやる。
添えられた花たちを見て小さく笑ったあと、綺麗になった木箱を、そっと閉じる。そして、透明なガラスケースから青い薔薇を取り出し、それも一緒に添えてあげる。
「……きっと、不可能に近かったと思うんです。それぐらい彼女の心は閉ざされていて、それでいて頑丈な鎖に、大きな錠がされていた。でも、一人では不可能でも、たくさんたくさんの人たちのおかげで、それは奇跡へと変わりました。それを集めてしまった彼は、すごいなと思います。何にも興味がなさそうな彼がカメラに出会い、そして彼女を見つけた。……きっと、それも偶然ではなく必然だったのかも知れませんね」
そして、まるで宝石でも入っていそうな箱を、そっと鞄から取り出す。
「つらいこともたくさんありました。彼女に至ってはつらいことばかりだったかもしれません。それでも今、こうして過去を振り返ることができるようになった彼女はきっと、つらいことばかりではなかったのだと。温かい思い出もあったのだと。そう思ってくれるでしょう。未来に希望がなかった彼女にとっては、今でももしかしたら信じられないと、そう思っているかもしれません。それでも、実感するでしょう。時間が、名前が、みんなが、そして、……彼が。『またね』と、そう約束をできることの喜びを、何よりも知っている彼女にとっては、たったそれだけの言葉でさえも。つらいつらい日々を送ってきました。彼女は特に。でもきっと。だからこそこの先の未来には、誰も知らないような、至上の幸福が待っているんじゃないかなと。……ぼくは、そう思っていますよ」
ゆっくりとその宝石箱から取り出したのは、少し小ぶりな、かわいい向日葵の花。
それを、……そっと彼のそばに添えてやる。心なしか、花たちが綺麗に咲いている彼女を、笑顔で迎えているような気がした。



