次に蘭を――……。
「きっと、彼はいろんな気持ちに押し潰されていたことでしょう。母を亡くし、父を狂わせ、兄は出ていった。……つらかったでしょう。何もしてあげられなくて、ただあれを着けてしまった時は悔いて悔いて。変貌していく彼を、見ていることしかできませんでした。それでも今、彼は立派になりました。甘いものは控えてもらわないと大変そうですけどね。ゴリラのマーチがパンパンになってきたので」
次に百合を――……。
「彼女から執事の名前を聞いた時は、それはそれは嬉しかったです。彼女に抱きついてしまいそうでした。……頭のいい彼でよかった。きっと、彼女を家の言い方で知れば、本当に殺していたかも知れません。こう言ってはなんですが、彼が出ていって、そして拾われてよかったと思ってしまいます。彼がいないと彼女はきっと、誰にも出会うことなどなかったのだから」
次にアサガオを――……。
「彼のためを思って作ったレールが、彼にとってはつらいものでした。師範の指導はきっと、それはそれはキツいものだったと思います。……今思えば愛の鞭という言葉がピッタリですが、小さな頃の彼には堪えられなかった。その気持ちの拠り所が魔法少女になった時はみんなして慌てましたが、それでも絵が何よりも好きだった彼は、きちんと自分の気持ちに正直になってその道へと進むのでしょう」
次はナデシコを――……。
「母を、寄り添っていた彼女を、そして担任の先生を。大事な人たちが離れていった彼にとって、きっと女性であり、何よりも強かった彼女の存在がさぞ大きかったのでしょう。無理に情報集めもしなくて済み、前の彼に戻ったみたいで見ていて頬が緩んでしまいますよ。母親はどうやらとても強い方みたいで、ずっと機会を待っていたようですよ。元彼女の子も、どうやらとっても心が強いみたいで、純粋でやさしい彼を支えていきたいと、そう思ってるみたいです。先生は無理をし過ぎですね。慌てて百合へと優秀な医師を送っておいて正解でした。……想いを受け取れずに申し訳ないですが、それでも彼女もまた、気持ちが変わったみたいでよかったです」
次はアネモネを――……。
「まだ小さい頃から両親と引き離され、そのまま会えなくなってしまった彼にとって、毎日が寂しさでいっぱいだったことでしょう。でも、素直に寂しいと言えない彼にとっては、みんなの存在が何よりも心強かったことでしょう。今では気持ちが前へ前へと出てきてしまっているみたいで、彼女も慌ててるみたいです。それを見ているのも楽しいですよ」
次はサクラソウを――……。
「ぼくは正直に言えば、こいつの母親が嫌いでした。あいつの声を奪ったこと。出したいのに出せない、困ったような表情をするあいつを見ているだけで、苦しかった。でも、彼女が言うんですよ。嫌いにならないであげてくださいと。そう言う瞳の奥で、『嫌うならわたしを嫌いになってください』と。彼女だって悪くないんです。……でも、そう言われてしまってはもう、嫌いになどなれない。それにあいつも今、声が出せるようになって、母親とも楽しそうにしているんで。ぼくは、それを遠くから見ていることにします。毎日笑ってくれてたら、それだけでぼくも笑えるので」
次にアヤメを――……。
「妹の存在を父が消し、弟の存在を母が消し。自分ができることは何なのかと、一生懸命彼が考えた結果があの姿でした。彼がそうと決めたのなら、頑張りなさいと、ずっと応援していました。今はとってもかっこよくなっていますよ? 男女ともにファンが多いみたいですけど。でも、父親は決して妹の存在を消したわけではありません。いつも必死に糸口を見つけようと、寝る間も惜しんで探し続けていた。……ただ、その事件が危ないものだと知ってしまった。遠ざけることが守ることじゃないんだと、彼もまた、彼女に教えてもらえたみたいですね」



