「――ね? 言ったでしょう? ぼくは勝負事にはとことん強いんですよ」


 病院内にひっそりと建てられた、たくさんの花たちに囲まれた“彼女”に、そっと声を掛ける。


「……ま、マ○カは本当にダメですけどね。運転も禁じられてますし」


 “彼女”の前に……ことり。大きな木箱を置く。


「本当は、ぼくがなんとかしてあげたかったんです。みんながつらいのはわかっていた。それでも、みんなの問題に限っては、ぼくが手を出していいような問題じゃなかった。一番助けたいみんなを、……どうにかしてあげたかった」


 首に提げている鍵をすっと外し、その大きな木箱を開ける。


「それでも、そうしなかったおかげで今があるんだって、そう思います。彼女ならやってくれると。そして、彼女もまた、みんななら救ってやれると。信じて待つことが、こんなにつらいとは思いませんでした。でも、……待っていてよかった。きっと彼らは、今からが本当のスタートですね。ぼくなんかがいなくても、勝手に大きく強く、そして誰よりもやさしい子たちに、みんななってくれました」


 大きな真ん中の部屋の、枯れてしまった向日葵を、そっと取り出す。


「あなたもさぞ心配だったことでしょう。アザミさんもアオイくんも、これからちょっと大変かも知れませんが、きっと彼らなら乗り越えられるでしょう。それだけ強い人たちだ」


 そして、まずはそこから薔薇を――……。


「ぼくのことも、ちゃんと彼女は見ていました。いやー、隠し事なんか彼女にはできなさそうですけど、よく彼は最後まで隠し通せたなと。呆れを通して感心しています」


 次は菊を――……。


「こいつの母親もあなたと同じように、生んですぐに亡くなってしまいました。それでも、父親と一生懸命生きて、それからみんなとも生きました。……大切な子もできたみたいなので、そこはまあ大目に見てあげたいと思いますよ」


 次は牡丹を――……。


「……一時はどうなることかと。あいつのことを好いてくれる奴なんてきっと、彼女以外絶対に現れないと思ってましたからね。奪還作戦のDVDをぼくも戴いたので、今度一緒に見ましょう」


 次はツツジを――……。


「きっと、わかっていたからこそ言えなかったんでしょうね。それでも、そんな彼の想いに気づいた彼女に言ってもらえて、彼も吹っ切れました。……吹っ切れすぎて、彼女が大変みたいですけどね。これからがきっと楽しいんじゃないかな」