アオイはここで終了。あいつを寝かすと電話を切った。
「それじゃあ理事長。14は行くんで」
『わかったよ。……あんまり、酷いことはしてあげないでね』
「それはあいつ次第で。今まで無敗だったところに正の字足されたら、オレのプライドが許せません」
『いやいや。それぐらいのプライドは許してあげようよ。相手は女の子だし』
「は? 女だからでしょ。しかも下僕の分際で。オレ、手は抜かないのが信条です」
『いやいや。女の子なんだから手加減してあげ――』
面倒くさくなったから途中で切った。
「というわけなんで、14日に報告行ったあと、オレ3月まで動けないんで」
「え? なんか家でさせられるとかじゃないの?」
「違うよ。そんなの断るし」
「何があるかは、言いたくないんでしたねえ」
「うん。だから、なんかあったらメール入れておいて? 電話も多分出られないと思う」
「そんなに忙しいのか」
「うんちょっとね。まあよっぽどのことだったら留守電入れておいて。折り返し、連絡できたらするからさ」
「九条くん……」
先生は心配そうにオレのことを見ているけれど、小さく笑って逃げた。
「(こんなこと、誰にも知られちゃいけない。誰にも、……知られたくない)」
母さんの存在を。薬の存在を。……隠して。隠して……。
「(……ああ。今年もオレは、罪で汚れる……)」
そして今年も。……オレは、責められるんだ。
まだマシだ。腫れ物に触るように見てきたりされるよりは十分。
「(よっぽど責めてくれた方が、罪悪感に苛まれない)」
オレの名前なんか、呼びもしないのに。オレのことは、ハルナを殺した奴。オレの存在なんかないくせに。この時期だけは、責められるだけに存在する。
「(……十分だ。ほんと。オレが許されることなんて、もう一生来ないんだから)」
そして翌日。朝早くにオレは、先生に挨拶だけして彼女の家を後にした。
「えーっと、何日分だっけ……」
今年は一日増えるから、今日も合わせて17日分か。
まあそんな保つのって言ったら冷食くらい? チンすればいいから簡単だし、それにしよ。
「……あ、あったあった。これこれ」
手に取ったのは、黒と灰色のリボン。
「あいつはきっと、本当の意味で取るんだろうな……」
灰は仕事運UP。仕事を熟して、あの家の信頼を確実に得る。これはオレの決意表明。そして黒は……勝負運UP。
「(……だってこれは、ゲームなんだ。負けられない戦いなんだよ)」
でもオレは、持ってるから。これは、あいつ自身の運を上げるために。
「……って。オレの拗れた裏の理由なんて、きっとわかんないよね」
言う時なんかきっと来ないだろう。それでいい。……それで、いい。



