すべてはあの花のために➓


「ね? キューピッドさんっ」

「ふざけんなー。マジふざけんなー」


 大の字になって寝転がるヒナタくんに、小さく笑いながら頭を撫で続ける。


「モミジさんにも会いに行こう? 海に向かって文句を叫んだらいいよ」

「やだよ。周りの人たちに指差されて笑われるのが落ちじゃん」

「ははっ。でも、まさかヒナタくんにまで内緒にしてたなんてね」

「……オレの予想だけど、わざと隠してたね」

「なんで?」

「オレへの当て付けでしょ? どうせ」

「……それこそなんで?」

「ここに、早く来てあげなかったからでしょ」

「………………」

「ルニってこと、隠してたからでしょ」

「………………」

「知らないよ。モミジが何考えてたのかなんて。隠されていい気はしないけど、まあ危ないことってわけじゃなかったし、……試されてたのかなとは思うけど」

「……そんなことないと思うな」

「え?」


 わたしも、もう一度彼と同じように大の字になって寝そべる。


「信じてたんだと思うよ。モミジさんも、ヒナタくんのこと」

「………………」

「それに、早く安心して、わたしから離れてあげたいって思ってたから、焦らせてたんじゃないかな? じゃないとわたし、まともに学生生活送れてる自信ないし」

「………………」

「隠してたのは全部、わたしのためなんだ。本当にキューピッドさんだっ」

「……英雄か、悪魔か」

「ん?」

「その実態はただの霊だったけど。……でも、シランさんの言う通り天使だったってわけか」

「……そうなの?」

「自分が今言ったんじゃん」

「違うよ! わたしとヒナタくんを繋いでくれた、大切なキューピッドさん!」

「……い、言ってて恥ずかしくない?」

「全然? だって本当のことだし」

「……あっそ」


 照れてしまったのか、体を起こしてわたしの代わりに鞄の中を漁り出した。


「あったー?」

「ごちゃごちゃし過ぎ」

「詰めまくったからね! 大切なもの、捨てたくなかったから」

「……うん。ちゃんとわかってるよ」


 体を起こすと、ヒナタくんの手にはいつの間にか、あのお守りが握られていた。


「……手。出して?」

「……なんか、お守りを開けるってすごい悪いことしてるみたいなんだけど……」

「だからカツラさんたちに、絶対あんたに見つからないようにしたいって頼んだんだ。よく考えたよね三人とも」


 手の平の上で、縛り紐を緩めたお守りを、ひっくり返す。


「ちっちゃい!」

「本体からしてデカい鍵が入るわけないよね」

「おお。それもそうか」


 その鍵は本当に小さくてかわいらしくて。見ただけで、ペアだということがよくわかった。