すべてはあの花のために➓


 初めに言った通り、わたしはあなたに愛を教えようと思ったんです。乗り移ったあとも、あなたの感情の起伏が激しくなる前に、わたしが出て押さえていたりしました。

 一介の霊に、そんなことできません。ただ、わたしと同じ運命を辿って欲しくなかった。あなたが幸せになるまで見届けたいと。そう思って、いつもそばにいました。


 日記をつけてもらっていたのは、過去に悪いことばかりではなかったことを、いつでも振り返られるように。

 無理を条件にしたのは、あなたの体のことを考えてです。あなたが無理をして倒れたあと、わたしが少し出ていたのは、これ以上連続して無理をさせないため。ほんの少しでも休憩をしてもらおうと、そう思ってのことでした。

 赤が好きだったので、葵にも好きになって欲しかったんですけど。余計なお世話だったのかも知れませんね。

 コーヒーは嫌いです! なんであんなもの飲めるの?! あれは毒よ毒! 苦みを感じるものは、人間の体にとって毒と判断するようにできてるんだから! 今更止めても葵、中毒だからやめられそうにないですけど。ほどほどにしてね。


 言霊で縛られて、……というのも少し違います。そもそも言霊なんて、わたしは霊ですけどそんなことできません。
 ただ葵の体に乗り移る際に、体だけでなく名前も依り代に憑いたので、朝日向葵と言葉にされてしまうと、わたし自身が葵の体から出て行かざるを得ない。
 葵のことが心配すぎたわたしは、あなたには自分の名字を言わせないようにしていました。


 ……驚いていますか? 正直、わたしもあなたがいろいろな酷いことに巻き込まれてしまうとは思いませんでした。
 花咲のお二人にはよくしてもらっていたので、そのままきっと葵の名前も見つけてもらえるだろうと思っていましたが。まさか、こんなことにあなたが巻き込まれてしまうとは思ってもみませんでした。

 だから、体から出ていこうと思っても出て行けず、終いには塞ぎ込んでしまった葵の代わりをしてしまいました。
 つらい思いをたくさんさせてしまって、本当にごめんなさい。


 望月の神の子は、憑きやすいですが、精神面でトレーニングをすることになっていました。それは、あなたの母も同じでしょう。
 家からは別に言われていませんよ? 神の子の判断で、そういうものをあの社に入れていたんです。……まあ、いろいろと。


 ですがあなたの場合、望月の血が強く、才にも溢れているとともに、憑きやすい体質でもありました。
 このままわたしが離れていってしまえば、変なものに取り憑かれてしまうかも知れない。なので、危なくなったあなたの代わりを、わたしはしていました。

 冷たくなったのはわたしが少し出てきたせいもあったりしますが、後半は葵を追い込むためでもありました。怖かったですよね。本当にごめんなさい。

 今となってはもう、少々無理をしても平気な体となり、心も、きっと隣の彼がいれば平気でしょう。


 やっと、肩の荷が下りました。これでやっと、きちんと成仏できそうです。