「……九条くん? 大丈夫?」
「んん~……(せんせ~……)」
しばらくしたら、部屋に先生が来てくれた。よかった。ほんとよかった。
「……逃げない?」
「(こくこく)」
それからやっと、飴を引っこ抜いてもらった。
「ありがとうございます、せんせい」
「いいえ? ……気持ちは決まったかしら?」
「そう言うってことは、先生も知ってたんですね」
「レンくんが鬼の形相でいきなり『配役チェンジだ』なんて言い出すから、どうしたのかと思ったけど」
「……ま、いいですよもう。諦めます」
「やっと折れてくれた。よかった」
「……? どういうことですか?」
「だって、あなたの言う作戦にはいつも、あなた自身だけ入ってなかったんだもの」
「……? オレ、結構頑張ってたんですけど」
「そういうことじゃないわ。助けられる人たちの中に、入っていなかったのよ」
「……オレは、助けられちゃいけないと思ってたんで」
「それもちゃんとわかってた。……お母様の件の頃からずっとね?」
「え」
「言ったじゃない。何かあったら言いなさいって。お母様のことは必死で隠してたし、あおいちゃんの願いでもあったから何もすることはできなかったけど。それでも、何かはしてあげたかったのよ、ずっと」
「先生……」
「あなたはいつも、隠してばっかりね。初めてあおいちゃんに会った時も。お母様のことも。その銀色も。あおいちゃんを助けることも。……でも今、ようやく前に進んでくれた。それがすごく、嬉しいの」
ロープを解きながら、先生がそう話をしてくれた。
「……アイは、ずっと苦しんでたんだって。言ってたんです」
「え?」
解いてもらって体を摩りながら、さっきの話を先生に聞いてもらう。
「オレに許してもらっても、つらかったって。自分のしてきた罪は消えることじゃないんだって。オレが、……アイのせいじゃないって言っても、アイはずっと苦しかったって。そう言ってました」
「まあ、それはそうでしょうね」
「え?」
「あなたはどう? あおいさんに何か言ってもらったことはある? たとえばお母様の件。あなたのせいじゃないわって、言ってもらえた?」
「……はい」
「それで、あなたはどうだった? 楽になれたんじゃないの?」
「……はい。すごく」
「それは、あおいさんが関係者だったからでしょう?」
「……? 薬の、ってことですか?」
「そうね。彼女のせいじゃなくても、関わりのある人からそう言われて、あなたも楽になった。でもアイくんはどう? もちろんあなたに言われて楽にはなったろうけど、あなたのご両親には? ご家族には? あおいさんには? ハルナさん本人には? ……きちんと話をして、皆さんに許してもらえれば。きっとアイくんは、もっと気持ちが楽になれると思うわ」
「……だから、オレだけが言ってあげても、ダメだったんですね」
「違うのよ九条くん。……あなたが言ってくれたから、アイくんは自分を責めてた頃よりもずっと、気は楽になった。それでも、あなたのやさしさに溺れてしまわないように。きちんと最後まで、皆さんに許しをもらえるまでは甘えちゃいけないと。……あまりにもあなたのやさしさが強すぎて、困ってしまったんだと思うわ」



