すべてはあの花のために➓


 九条くんは、自分が許されないことをしてしまったと思ってる。それは彼女もそう思ってたはずだよ? でも今、こうして皆さんに許してもらう場を君は作ってあげた。彼女を助けたいがために。彼女の、『みんなを大切に思う気持ち』を信じて。みんなの『彼女が大好きだって言う気持ち』を信じて。
 君がよく言っていたね。あおいさんのことを中途半端に知ったらダメだって。だったら皆さん、あおいさんのことを嫌いになって終わってしまう。……そうしたくなかったでしょ? だから九条くんは、一生懸命ここまで頑張ってきた。


「それは、……君も同じでしょう?」

「……!! ……。オレはっ……」

「……そうか。君は、彼女にだけは自分を許して欲しくないんだね」

「……。あい……っ」


 バレるのもいやだ。でも。……こんなことしてきた自分が一番。許したくなんて。ないんだ……っ。


「自分だけ助かろうなんて。……そんなこと、許さないよ?」

「……!!」

「レンが言ってたね。あとは、逃げるな? だっけ。……どうしてそう言ったのか、まだわかんない?」


 カオルは……まああいつはよくわかんないし、そこがいいんだけど。少なくとも、自分がしてきたことを悔いてはいたと思う。それでも君やコズエさんに、許してもらえたんだ。それはしょうがなかったことだ。今までつらかったねって。
 レンも、あおいさんを傷つけることなんてしたくなかった。いっつもつらそうだったよ? でも、自分がしないといけないんだって、俺らのことも考えて。……でも、君に見つけてもらえた。救ってもらったんだ。今までよく頑張ったって。助けてあげるよって。あいつも、今までしたことを、君に許してもらえたんだよ。


「俺は、君にお姉さんのこと許してもらえた。今まで自分を責めて責めて。許されないことだった。どうやったって。それでも君は、俺が悪かったわけじゃないって言ってくれた。俺のことをちゃんとわかってくれた。見つけてくれた。もう自分を責めなくていいんだって。あの時気が付かなくてごめんって。俺なんかに謝ってくれた」

「……。あい……」

「でも知ってる? 許してもらえることは、逆に苦しいんだよ。そう言われるってことは、相手側にはもう自分がしてきたことが完全にバレてしまってる。それでも向こうは、俺を責めもせずにただ許してくれる。……責められる方がよっぽどいい。許してもらうことが、何よりもつらい時だってあるんだよ」

「でも。オレはアイを。……責めることなんてできない。……したくないっ!」

「うんっ。もちろん。それも。ちゃんとわかってるよ……?」

「……。あい?」


 なんでアイまで。泣きそうな顔すんのさ。


「君のやさしさがつらかった。たとえ、許してもらえたとしても。俺自身がしてしまったことは忘れられない。罪は一生、消えることなんてないんだよ」

「そんなこと、ない。あいは。……悪いことなんて一つもしてない。オレが。見つけてあげられなかったから……」

「そう言われる度、つらかった。あの頃を思い出して、……許してもらえる度に。君のやさしさに。俺は傷付いてた」

「……! そんなつもりは……」

「君を責めてるつもりはないんだよ? ただ、俺自身のしてきたことは、俺が決めることだ。つらいだけじゃなかったよ? 確かに、君にそう言われて心が軽くなった。これはほんと。君がもっと酷い人だったらよかったのに。そうしたら俺は、今よりももっと、楽だったかも知れないのに」

「………………」

「君が許してくれるから。俺は。……前に進まなくちゃいけなくなったじゃん」

「……あい?」

「君だけ前に進まないなんて許さない。君だって。やさしすぎるあおいさんに許してもらえばいい。許してもらって。……っ。今まで積み重ねてきた罪に溺れられず。背負って背負って。……前に進めばいい!」

「……。あい。……っ」

「許さない。……許さないよ九条くん! なんで一人だけ罪に溺れようとしてんの……!? そんなの……俺も。カオルも。レンも。許さないに決まってるでしょ……ッ!!」

「あい、……むぐっ……!?」