すべてはあの花のために➓


「……オレはね。ただ、あいつを幸せにしてあげたかったんだ」

「九条くんがしてあげたら?」

「してあげられるなら、オレだってしたい。でもオレはこんな性格だし、初めて会った時から嘘つきまくってるし、母さんのことだって隠してた。それに、あいつを傷つけることばっかり言って。……最低なことばっかり、してきた」

「それは俺らもそうじゃん。まだ九条くんに会う前から俺らは、あおいさんを傷つけるようなことを計画してたよ?」

「それでもきっと、わけがあるんだろうなって、オレは最初から思ってた。……レンはあれでも王子キャラでやってたから、女子からは結構人気があったんだ。女子って好きでしょ、そういうの。だからあいつもそうかと思って。もう一人のあいつも言ってたし」

「はなさんが……」

「きっとレンなら、幸せにしてあげられるんじゃないかと思ったんだ。安直だけど。それでも、誰かを好くことさえ怖がってたあいつに、そんな存在が現れたらきっと、消えたくないって。生きていたいんだって。……そう思ってくれるんじゃないかなって」

「……全部、あおいさんのためを思ってそうしてたんだよね」

「……みんなに言われるんだ。あいつの幸せはあいつが決めるんだって。そんなのわかってる。押しつけるつもりはないよ最初から。だって、あいつが決めないと幸せなんてなれないし。でも、ちょっとそう仕向けること。いじることは、オレだってしちゃいけないわけじゃないと思う。だって、それがオレの考えるあいつの幸せだったから」

「………………」

「でもみんなして、オレが考えるあいつの幸せの邪魔をする。みんなして、オレの幸せを邪魔してくるんだ」

「……本当にそう?」

「え――っ。んんっ」


 今度はスポーツドリンクを飲まされた。……ねえ。オレは今から、何かの試合に出ないといけないのかな。


「今言ったよね九条くん。できることなら自分が幸せにしてやりたいって」

「(……そりゃ、言ったけど……)」

「……君も、あおいさんと一緒だね」

「(……また言われた……)」

「だってそうでしょ?」


 あおいさんは、嫌われたくないから今までみんなに隠してた。でも、あおいさんを本当の意味で助けてあげるには、自分がしてきてしまったことを正直に話して、それを皆さんに許してもらう必要があった。
 だから君は、あおいさんのためだけを思って、あおいさんに嫌われるようなことをたくさんしてきた。そして、あおいさんに嫌われるとわかっていて、それでも盗聴器を仕掛け、皆さんにあおいさんの口から、自分の話を聞いてもらった。
 あおいさん自身はそれは知らないことだ。でも、自分の口から皆さんに聞いてもらったことに変わりはない。

 ……君は、そうしたかったんだよね。


「今からあおいさんは、今まで自分がしてきてしまったことを、みんなに許してもらうよ? 君がそうしたんでしょ? でも君はどう? 君も、してきてしまったことを、あおいさんに許してもらう必要があるんじゃないの?」

「(オレは。……いいんだ)」

「みんなを助けてあげるんだって。そう言ってたね。でも君は? 君は、君だけは助からないんじゃない? 君のやり方だと」

「ぷはっ。……だってオレは、許されない。助けてもらうような、人間じゃない」

「あおいさんは、信じてくれたんじゃないの? 助けてくれると思って。信じて待ってるって。……君にそう言ったんじゃないの? 君も、信じたんじゃないの? だから、こんな作戦だったんだよね」

「………………」

「あおいさんが、皆さんのことを大切に大事に思ってるから、その気持ちを信じて、追い込んで追い込んで。……最後の最後で必ず、自分の口から言わせるように。……ね? そうでしょう?」

「……信じてた」


 だから今、こうして話を聞かせてあげられた。みんなのことも、もちろん信じてる。だから、全員が来てくれて、すごくすごく嬉しいんだ。


「でも、君は本当の意味であおいさんを信じてないんだね」

「え……?」

「だってそうでしょう?」