「あなた、どうしてレンくんがあんなこと言ったのか。まだわかってないとか、そんなことないですよね?」
「……? 嫌われてこいって、そういうことでしょ」
だって、そう言ったじゃないか。ハッキリさっき――――。
「――!! ……ッ」
そう言ったらカオルは、思い切り髪を掴んで、オレの視線を無理矢理上げる。
「ふざけるのも大概にしてくださいよ九条さん」
「……っ、はなせ」
さっきからみんなしてオレの髪引っ張ってきて。……禿げたらどうすんだ禿げたら。父さんそろそろヤバいんだぞ。
「正直言って、あなたの作戦はとってもよかったと思います。やっていてとっても楽しかったですしね」
「それカオルだけだと思うけど……」
「アイさんは黙っていてください」
「はい……」
至近距離でカオルが睨み付けてくる。
「ですが、正直言って作戦に苛ついていたこともあります。何も文句は言いません。ついていくと決めたのはぼくたちですから。……ですがね九条さん。それも我慢の限界なんですよ」
「……………………」
「今まで散々酷い駒扱いしてきたんですからね。しょうがない結果ですよ。もう棋士の言うことなど、ぼくたちは聞けないくらい腹が立って腹が立って仕方がありません。落ちるならどうぞご勝手に。……自分の不始末、最後ぐらいは自分で落とし前つければいいんですよ」
パッと手を離して、カオルも部屋から出て行ってしまった。
「……落ちる、か……」
そりゃもう、どん底に落ちるだろうね。あいつにはバレないように。隠れて隠れて……。そんなことしてきたのに。最後の最後でバレて。何もかもが、……パーだ。
「九条くん」
「……。なにアイ――むぐ(また……?)」
今度は、エネルギーチャージのゼリーを突っ込まれた。
「レンね、思い出したんだって。何て言ってたか……写真? が、トリガーだったんだってね」
「(……いや、そうなんだけど。写真は見せてないんだって)」
「その風景と、ピッタリはまったんだってさ。今朝」
「(今朝? …………あ、花畑か)」
だったら自分がレンにテレビ電話のカメラ向けろとか言わなかったら、何もかも事なきを得てたのか。
「はあ。……それはほんと、確かに不始末だ」
「……九条くん」
あの写真に写っていたのは、夕暮れと花畑と小さな少女だったけれど。朝日と花畑、小さく縮こまるあいつを見たから、レンはきっと思い出したんだろう。……薬、半錠しか使ってなかったから。きっとトリガーが緩かったんだ。
「レンから大急ぎで連絡があったから何かと思ったけど……九条くんは、レンをあおいさんの王子様にしようと思ったの? どうして俺にしてくれなかったの」
「え。アイ。そこが気になるの」
「誰でもよかったわけじゃないんだろうなって思って。どうしてレンだったのかなと思って。……なんで俺じゃなかったのかなと思って」
「やっぱり気になってるんじゃん」
でも、確かにアイでもよかったのかな。だってコンテストでは、十分アイもあいつの王子として横に並んでたわけだし。
「……お姫様はさ、王子様と幸せにならないといけないんだよ」
「それは、物語の話でしょう?」
「……だってあいつ、お姫様みたいでしょ」
「言いたいことは、とってもよくわかるよ」
やっぱりね。アイならわかってくれると思ってたんだ。



