すべてはあの花のために➓


 それから理事長に、アズサさんが病気に気づいた時にはすでに末期だったことを聞いた。
 家には言わないでくれと。わざとあんな別れ方をしてきたんだからと。そう言われた桜の医師たちは、彼女の死を、一度闇の中へと隠すことにした。

 夫を支えるには体が保たない。子どもも育てられない。
 ただ一度でいいから、最後に自分を母と。そう呼んでくれるまでは、意地でも生きようと。……そう決めていたらしい。


「じゃあ父も、桜を恨む必要なんてないんですね」

『すまない。伝えられればよかったんだが……』

「いいえ! 真実が聞けてよかったです! 母も、きっと今喜んでるんじゃないかと思うので」

『……ありがとう。そう言ってくれて』


 これでどうやら、母親絡みのことは解決したみたいだ。


「……アオイ? だから、アイとは血が繋がってる可能性が高いんだ」

『みたいだね。世間狭いね。ビックリだ』


「……ねえカオル」

「はい? なんですう?」

「……血縁同士って、どこからなら結婚しても大丈夫なんだっけ」

「え」

「だ、だってだって! そんな柵があると厄介じゃん!」

「……えーっと。確かいとこからなら大丈夫だと思いますが……」

「よし! なら大丈夫だ!」

「そ、そうですねえ……」


 なんかアイがカオルとこそこそしてたけど。


「ということは、アイさんのお母様を調べたら、もしかしたらあおいさんのお母様に行き着く可能性もあると」

「ないとは言いきれないわね」

「でも、そんな悠長に母親の方を調べてていいんですかね」

『……どういうことだい?』

「結局のところ、父親の方の名前を呼んでやらないといけないじゃないですか。母親に行き着く頃には、ゲームオーバーってことも十分可能性としては有り得ます」

『……大丈夫だよ』

「アオイ?」

『きっとヒナタなら。……みんななら、大丈夫だ』

「……うん。ありがとう。頑張るよ」


 それから各々何かわかったことがあれば報告をしたんだけれど、ほぼ何もないに等しくて、名前と出身地の情報を得ただけだった。


「(でも、これでもだいぶ進歩だ。だって、名前に関しては何もわからなかったんだから)」


 カチ……カチ……と、動いている時計を見つめる。


「(……2月、13日……)」


 恐らく電話は、今日が最後。次は、3月に入ってからだ。